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心優しい少年が放ったその言葉が、単なる同情からくるものか、はたまたそうでないのか、彼自身には皆目検討もつかなかった。
だがしかし、Aと初めて会って数十分しか経たないのに、どうしても独りにさせたくない、この子には自分がついていなくては駄目だと思ってしまった。心というものは不思議なもので、ついさっきまで鬼太郎がAに対して抱いていた敵対心や警戒心は、いつの間にか消え去っていた。
「ぼくはゲゲゲの鬼太郎。きみのこと、教えてほしいな」
「うん…!あたしはA、えっと、えっとね」
それから鬼太郎とAは道端に腰を落ち着け、あれやこれやを楽しげに話し始めた。鬼太郎の本来の目的である蒼坊主を迎えに行くことをすっかり忘れて。
肝心の蒼坊主がやっとゲゲゲの森に近づいたのは、それから約1時間後のことである。
*
数十年後。
商店街から少し外れた場所にあるカフェ。人通りが少ない場所にあるが、昼時ということもあり、店内は老若男女が入り混じり、ガヤガヤとしていた。
「ここか、Aの働く場所は。えらく混んでるなぁ…」
ドアベルを鳴らして入った一人の少年。時代遅れの青い学童服の上に黄色と黒のちゃんちゃんこを身につけ、両足には靴の代わりに古い下駄を履いている。風変わりな装いに他の客は一瞬目を奪われるが、すぐに興味を無くし携帯や雑誌、新聞、友人、家族など、各々が好きな対象に視線を移した。
周囲の視線を気にしない様子の少年は、目当ての人物を見つけると笑み浮かべて声をかけた。
「やぁA。随分繁盛してるね」
声をかけたかけられた相手、Aは若い女性のウェイターだった。
「よお鬼太郎!あたぼうよ。ほらほら座んな!カウンター空いてるからさ」
少年、鬼太郎に気づいた彼女は嬉しげに反応し、手早く角のカウンターへ案内した。深い珈琲の香りが鬼太郎の鼻をくすぐる。あまり飲み慣れたものではないが、嫌いではない香りだ。
「何か飲んでくか?それともランチにするか?全部あたしの奢りだぜ」
「僕はお腹空いてないからいいよ」
「せっかく来たんだ。何か飲んでけよ」
「うーん、じゃあ、この、あったかいほうじ茶で」
「りょーかい」
Aはエプロンのポケットからメモを取り出し、注文を書いていく。
「んじゃ、すぐ持ってくるよ。ごゆっくり〜」
「あぁ」
賑やかさに包まれた何気ない日常の風景。人々は、彼らたちが妖怪であることを知らない。
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瑠璃 - 新しい話読ませてもらいました!この小説の夢主の性格が他の夢主と違う所がすごく好きです!無理せずマイペースにこれからも頑張って下さい(*^^*) (4月5日 12時) (レス) id: 2399b502ed (このIDを非表示/違反報告)
はなこ(プロフ) - 瑠璃さん» ありがとうございます!まさか読んでくださる方がいると思っていなかったため、とても嬉しいです。マイペースに頑張ります! (4月4日 11時) (レス) id: 6d88c11cf9 (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃 - 今まで読んだ5期の夢小説の中で、一番好きです!これからも応援しています! (4月4日 11時) (レス) @page29 id: 2399b502ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はなこ | 作成日時:2024年3月28日 1時