視線は俺をすり抜けて ページ3
北條side
「ふみ、お兄ちゃんには『体調が悪そうだったから』とだけ言って欲しいの。この話をしたことは言わないで」
お兄ちゃん、心配性だから。
そう言って赤くなった目を細めながら、困ったように笑うA。
ここに来る前、泣き出したAを抱きしめながらただ背中をさすっとったら、ポッケに入れてた俺のスマホが鳴って、見ると相手は蒼汰さんだった。電話やなくてLINEやったけど、それをAに伝えると長い深呼吸をして涙を拭った。
そんで「救護室にいるって返してて。ふみはもう練習に戻っていいから。ごめんね! 試合前なのに暗い話しちゃって」とか何とかいいながら笑うし、ほっとけるワケなくて救護室までついてった。
それで、来て早々こんなこと言うから。
「……ここにおったら、アカン?」
Aの傍から離れたらアカン気がして。
目を離したら、それっきりいなくなりそうで。
けど、Aは首を横に振った。
「だーめ。早く練習に戻って」
「せやけど……」
「ありがとう。でもほんとに大丈夫だから。ね?」
(……大丈夫ちゃうよ。絶対ちゃうやん)
そう思っても、なんて言うのが正解か分からへん。だってこれはAなりの、『拒絶』のサインやと思うから。やろ?
傷つけたなくて、
でも傍にいたくて。
Aが好きやからこそ、どうしてええか分からへん。
「ふみ?」
しばらく無言で立ち尽くしとった俺に、Aが首を傾げながら声をかけた。ベッドの上で座るAはもういつも通り。
正しく言えば、いつも通りのフリ。
(分かった、俺は、Aの気持ちを尊重する)
「いや! 落ち着いたみたいやし、そろそろ行くわ」
Aの笑顔に、俺もいつものように笑い返す。その途端、Aの目から一筋涙がこぼれた。
「ど、どしたん?」
「やっぱり、似てるなって」
「え?」
「ふみ、似てるの。気遣い方とか、雰囲気とか」
あぁ、だから。
だからか。
あん時、俺が告った時、
『あなたを好きになれたら良かった』
って言ったのは。
「ごめんなさい」
「……謝んなよ。Aはなんも悪ない」
俺をその婚約者に重ねて好きになられるより、まだそう言ってくれた方がええ。
優しいな。めっちゃ優しい。
せやけど、やっぱり少しだけ、残酷や。
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作者名:soft | 作成日時:2019年1月11日 1時