食わず嫌いな君と僕

名前だけでも覚えて帰って！ ページ45

『本日のヒーロー、いえ、ヒロインはもちろんこの方！赤星Aさんです！』


インタビューアーの方が張り切って紹介してくれる、たったそれだけで球場は大歓声。

(ん〜！ 最っ高！)

「ありがとうございまーす！ 皆さんこんにちはー！」

帽子を外して礼をすると、束ねた髪が落ちてきた。グシャグシャになった髪からゴムを外して、テキトーに手櫛で整える。縛り直すのもメンドクサイし、このままにしちゃお。


『赤星選手、素敵な髪ですね〜』
「わぁ嬉しい！ でもそれよりも聞きたい事がありますよね？」


流し目をしながら笑うと、インタビューアーの方も笑う。


『たっぷりとありますよ〜！ では早速。あの打席どういう気持ちで打席に入りましたか？』

「それはもちろん、スタンドに入れてここに立っちゃおうと思ってました」



(ほんとは能見さんの為なんだけど能見さんに『もし俺の為とか言ったら口きかない』って言われちゃったのよ)



けれどファンの方にはこれでもウケた。


野太い声と黄色い声が違和感なく一体化してるから不思議だわ。あちこちから色んな声が聞こえてくる。応援だったりツッコミだったり、ヤジも少々。でもジョークだから気にならない。


終始聞こえてくる声にニヤつきながら、それでもちゃんと質問に答える。


あっという間の時間だった。


『それでは最後に、ファンの皆様に一言お願いします』


インタビューアーの方からマイクを向けられる。

「ちょっとお借りしていいですか？」
『もちろんです！』
「ありがとうございます」

マイクを自分の手で持って、息を大きく吸う。


「皆さん！ 私の名前は覚えていただけましたか〜！？ せーの！」


その問いかけに、球場のファンは答えてくれた。



『赤星A〜！』



球場を揺らすほどの声で、力強く。



「正解でーす！ 知らなかった方は覚えて帰って下さいね！ そしてこれから、忘れたくても絶対忘れられないようなプレーをお見せしますので、よろしくお願いしまーす！」


マイクを返してお立ち台から降りる。
するとペンを渡されて、職員の方が一台のカメラを指さす。

「サイン？」
『そう。アレに』



何それ
めちゃくちゃクールじゃない！


指定されたカメラにサインをノリノリで書く。


(でもこれだけじゃ物足りないわね)


そこで閃いた。
カメラを片手で掴んで目線を合わせてから、上手にウィンク。それからもう片方の手を唇へ。



(ニンジュツ『投げkiss』よ！！！)

ひとしずく→←こんなご褒美聞いてない

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