食わず嫌いな君と僕

開幕、ふたつ。 ページ23

北條side

｢おっしゃ、開幕スタメンや……｣


誰にも聞かれへんように、ボソッと呟く。


年間にどれだけ試合があっても、やっぱりスタメンスタートは嬉しい。憧れの大先輩や同期のライバルに囲まれてるなか選ばれた事は、ほんまに励みになるし、同時に自信になる。


ふっと、深呼吸をしたと同時。

｢わっ！｣
｢うぉわ！！！？｣
｢ビックリした？｣
｢ビックリしたどころちゃうわ！ ほんまに心臓止まった……｣
｢ふふっ、この前のお返し！｣


振り返って目を合わすと、お茶目なウィンクが返ってくる。


｢やられた〜！｣

そして2人で笑う。Aと仲良くなってから定番の流れ。


Aはすぐ後ろに立っとって、俺の肩に手を乗せたままぴょんぴょん飛び跳ねる。


｢ふみ〜！ 今日も2人で二遊間よ！｣
｢そうやな！ しかも開幕やで！｣
｢これから私達で最強二遊間作っちゃいましょ！｣
｢いやぁ、タナキク越えんのはムリやろ〜｣
｢タナキク……？｣



跳ねるのをやめて、首を傾げるA。







＿＿ドクンｯ






(なんやねんそれ、可愛すぎやろ……)







｢っ、そっ、か！ Aは野球選手のくせに野球選手知らんのやった！｣




今思ったことは、多分バレへんけど誤魔化した。



誤魔化さずにいられへんから。



｢ちょっと！ バカにしてるわね？｣


ムッとした顔で俺の頬をつねるそれすら、




アホみたいに意識してまう。




最初にAをキャッチボールに誘ったときから、
多分こうなる気がしとったのかも知れん。






呼び方が『ふみや』から、『ふみ』に変わって、





練習でペアを組んで、二遊間を守って、




ベンチや移動中は隣同士に座る事が当たり前になった頃にはもう。







そのよく笑う瞳(め)や、
すーっと綺麗に伸びる鼻筋、
いつも艶やかで柔らかそうな唇と、
ときどき見える綺麗で真っ直ぐな髪から、







目が離せへんようになっとった。




｢おーい、ふみー？ふみやくーん？｣
｢っ、なんやったっけ？｣


そんな事を考えとる間に、Aとの距離はお互いの鼻と鼻がぶつかるかぶつからへんか位のすれすれの位置に。



あぁ、ほんま……


(このアメリカ生まれアメリカ育ち！ タチ悪すぎやで……)



｢タナキクって？｣



｢あー、コンビ名や。 1人は忍者やで｣



｢へっ？ ニンジャ！？ ジャパニーズニンジャ！？｣









春、開幕しました。

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