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吹奏楽部と話して数日が経って。

私は最近は訪れていなかった自分の席の前に立っていた。その表面に指を走らせる。

教室に備え付けられている時計は午前十時を示していた。今日の生徒会は、午後から。

｢……落書きは、無し｣

綺麗な板面。

生憎うちの学校の席替えは机の中身だけを移動するものだ。落書きしたって席替えが行われてしまえば、終わり。そんな非生産的なことはしないらしい。

机の中、は。

｢……んふふ、いーっぱい｣

ぱんぱんに詰められたクシャクシャの紙たちを、一枚ずつ取り出して広げる。

油性ペンだったり筆ペンだったり鉛筆だったりボールペンだったり。ツールは違えど書かれている事は大抵同じ。

『相葉くんと別れろ』
『櫻井先輩に近づくな』
『大野先輩から離れろ』

後はみんな、死ねだの殺すだの単純な悪口ばかり。夏休みだというのに、ご苦労なこった。

……別に気にしたり病んだり不登校になったりはしないけど、さ。

いい気分はしないよね。紛うことなき悪口だし。

一枚一枚丁寧にシワを伸ばしまとめていると、ふと、｢智｣の文字が目に止まった。

｢……この人の字特徴あるなぁ｣

よくよく見れば、翔、の字も相葉の字も。綺麗だけどどこか独特な。

……まあそんなこと気にしてもこのイジメは終わらないわけだし。犯人探しをするつもりもないし。

｢……あ、時間｣

教室にかけられた時計が正午を指したことに気がついた私は、そのまとめた書類をカバンに突っ込んで教室から出た。

ふと見えた窓の向こうで、大きな入道雲が私を見下ろしていた。