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｢あ、忘れてた｣

そう言って副会長さんが私の後ろに視線を移す。促されるように私も振り向いたけれど、その先には無人の階段だけ。

なんなんだろう、と思っていると、副会長さんが声を上げた。

｢雅紀ー！智くーん！終わったよー！｣
｢……え？｣

驚いた顔をしていたと思う。何事かわからなくて副会長さんを見上げたけど、彼は、ふふ、って柔らかく笑うだけ。

やっぱり私は状況が掴めなくて、とりあえず無人の階段に目線を戻すと。

｢もー！翔ちゃん呼ぶの遅いよ！出ていこうかと思った！｣
｢おれ相葉ちゃん止めるの大変だったぁ｣
｢えぇ！かいちょも行こうとしてたじゃん！｣
｢気のせいだよぉ｣

と、まあ。
ほんわかした明らかに癒し系の二人が、楽しそうに階段の影から現れた。
よくよく見ると会計くんと会長さんだ。

｢紹介するね。会長の大野智くん｣
｢よろしくねぇ｣
｢会計の会計くん、もとい相葉雅紀｣
｢あひゃひゃ、よろしくね、Aちゃん！｣
｢で、俺が副会長の櫻井翔。自己紹介が遅くなってごめんな。これからよろしく｣

ふふ、と可愛く笑う大野先輩と
笑い皺が特徴的な相葉くんと
右手の差し出し方までイケメンな櫻井先輩を
こんな身近で並べて見たのは初めてで。

｢……こりゃモテますわ…｣

なんて口走ってしまって。

｢ちょっと待てA！好きになるな！惚れるなよ！｣と櫻井先輩が吠え

｢え!?駄目だよAちゃん！好きになったら生徒会入れないよ！｣と相葉くんが墓穴を掘り

｢入らなくて済むの？｣と私が首を傾げると

｢あ、バレちゃったぁ｣と大野先輩がまたふんわりと笑う。

ああ、高校入ってこんなに話したのは初めてかもしれない。結構楽しい。と、思う反面。

｢明日からは生徒会室で昼ご飯食べるから。弁当持って来いよ｣
｢へ？なんでですか？｣
｢はぁ？何言ってんだよお前。守ってやるって言っただろ｣

という櫻井先輩の言葉に現実を思い出したのも確かで。

｢……上履きに画鋲……ロッカーにゴミ……ボロボロになった教科書……｣
｢ふふ、Aちゃんの考えるいじめってなんだか古いよねぇ｣

なんて、大野先輩に笑いながら貶されても
私の憂鬱が晴れることはなかった。