水槽の脳 -kwmr ページ9
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タイトルに惹かれて購入したミステリー小説。
読んでみたは良いが残り半分を過ぎて未だ心動かされるようなシーンはなく、そろそろ飽きてきてしまった。
その証拠に僕は、テーブルの向かいで頬杖をつき野菜ジュースの成分表を読むAに気を取られている。僕に当たりこそしないが机の下では足をぶらぶらさせている君の気配さえ鮮明に感じられて、いそいそと本を閉じてみた。
様子を察するにさしずめ何か読みたいけど本棚まで歩くのは面倒といったところかな。言ってくれれば貸してあげるけど、この本。
咳払いをして、思い付きのまま喋りかける。
「僕は脳だけで電極と繋がれて、ビーカーに入ったそれらしい培養液に浸けられている」
「ぴんぽん、ヒラリーパトナム、水槽の脳」
顔をあげたAがテーブルを軽く叩いて割って入る。要は僕の早押しの真似だ。よく見ているな。
「クイズじゃないんだけど」
あ、そうとまた視線が戻される野菜ジュース。
「僕は水槽の脳かもしれない、と思った」
「拓哉の脳が浸かってるの」
「僕の脳という表現は正しいのかな。僕を定義してるのは僕じゃなくて電流を流す側の誰かだから…」
普通ならハイハイと聞き流されそうな話を、Aはゆっくり確かにねと頷いてくれる。Aは遂に野菜ジュースから目を離して顔をあげた。
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作者名:せの | 作成日時:2020年8月17日 2時