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それが2週間前の話。
本当に勇気を出してよく頑張ったと自分を褒めたいけど、いつまでも満足しているわけにもいかない。
もっと頑張るべき本番は明日に迫ったデートだから。
同年代に比べれば広めの僕の部屋。比例して広いクローゼットいっぱいに並ぶ服の前でしばらく考えた。だって大学や仕事終わりに食事をするだけのいつもとは違う。
Aちゃんはどんな格好で来るのかな。どうせなら横に並んでお似合いだって思われるような服が着たい。
ふと手に取ったシャツ。そういえばこれを一緒に買いに行った友人は、少し前に恋人に振られてしまったらしい。付き合う事になるずっと前から「彼女を好きだと気づく前に戻りたい」と嘆いていたのを思い出した。
彼の恋愛は初めから終わりまでずっと苦しそうだった。
僕はどうだろう。
Aちゃんを好きだと気づいてから、会えることも話せることも、こうして明日の服を迷うことすら楽しいと感じてる。
なんでだろうね。
シャツをあてながら全身鏡に映る僕に訊いてみたけど、わかんないけど早く選べば?とにやけてるだけだった。
◆
そんな調子でシャツもパンツも迷った挙句、朝は靴を何足も履き替えたせいで危うく遅刻しそうになってしまう。
バタバタと着いた駅前。先に待っていたAちゃんは、いつもの何倍も可愛くて、おはようよりも、お待たせよりも先に、伝えずにはいられなかった。
「Aちゃん、可愛い」
「ありがとう。服選ぶのすごく迷ったんだ」
「あのね、俺もめっちゃ迷った」
笑った僕につられて、照れたように同じだね、と言って君も笑う。
気持ちまで同じなんじゃないかと勘違いしてしまうほどの笑顔が、このままでも楽しいんだからいいじゃん、と見栄を張る僕を突き飛ばすみたいだった。
「じゃあいこっか」
花柄のスカートがひらりと揺れる。
…好きだと気づく前に戻ったら?
友達の言葉がふと蘇った。何度も見てきた背中を、もう繰り返さない為には今しかない。
「Aちゃん」
こうして後姿のAちゃんを呼び止めるのは最後。
「あのさ、」
「どうしたの?」
「Aちゃんの事が好き。こんなタイミングでごめん」
Aちゃんはぱちぱち瞬きをして、首を横に振った。
「ううん、嬉しい…私も祥彰くんのことが好き」
今日を記念日のデートにしていい?と訊く僕に、もちろんと答える彼女の笑顔を。
いつに戻ったってまた好きになるだけだ、きっと。
何もない夏です -kwmr→←ラブストーリーならどこでも -ymmt
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作者名:せの | 作成日時:2020年8月17日 2時