For the boys... (ページ3)

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くたびれた服　静けさの音ページ3

[side by KRIS]

出発したか…。

まだ薄暗い街の中をAの車が
店の前から走り去っていく。

ったく、一回言い出したら聞かない頑固者め…。

店に降りて、ドアの下に落ちている封筒を拾うと、
そのまま荷物を持って外に出る。

近くの駐車場に停めている車に乗り込んで、
メモに書いてある住所をナビに登録した。

………

……

…

店内にある棚から今夜かけるレコードを選んでいると、
そばの窓から差し込んでいた光が急に弱まった。

"雨か…" と誰に聞こえるでもない独り言を呟いて
店のドアの方に視線をやると、磨りガラスの向こうに
女性と思われる人影があった。

雨宿りは珍しいことじゃないし、まだ開店前だから
普段ならそのまま放っておいたはず。

でも、その人影は何を思ったのか、
いきなり腕を上に伸ばし、ラジオ体操のように
体を動かし始めた。

「ブッ」

男がゴルフのスイングをやったりするなら解かるが、
まさかこんなとこで体操なんて。

どうやら好奇心が勝ったようで、店の奥から出した
バスタオルを持ってドアを開ける。

『わぁ！』

最初はビックリしてたけど、持ってたタオルを渡すと
"ありがとう" と言う彼女。

髪も服もメイクも、雨に濡れてグチャグチャなのに
その笑顔はとても綺麗だった。

砂糖を控えた温かいココアを作って彼女に渡し、
ピアノの旋律が印象的な曲が入ったレコードを
プレーヤーに乗せる。

しばらく音楽だけが流れていた空間に
少しハスキーな声で "この曲、いいですね" と
呟いた彼女は、穏やかな笑顔を向けてくれた。

………

……

…

車庫から出て玄関に向かうと、Aが置いて行った
封筒を開けて鍵を取り出す。

家の中は生活に必要な家具が置いてある以外は
綺麗に片付いていた。

一人で暮らすには広すぎる家…
Aはここでどんな生活を送っていたんだろう。

「嘘ついてごめんな」

いつの頃からか、店のドアが開きAの顔が見えると
嬉しく思うようになっていた。

そう。
友人を住まわせる、なんていうのは勿論嘘で。
騎士(ナイト)気取りの自己満足なのは十分承知してる。

でも…帰ってくる場所くらい守らせてくれ。

Aと離れている間に、この淡い気持ちにも
白黒つけられるかもしれない…。