For the boys... (ページ2)

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KR「家は片付いたか？」

『うん、もう入居してもらっていいよ』

学生の時に事故で死んだ両親が残してくれた一軒家。

一人暮らしでも家賃がかからなかったからか、
同年代の人よりは貯金できていたことも
今回旅に出る後押しになった気がする。

その話をしたら、クリスから留守の間は人に貸して
家賃収入を得たらどうだ、と提案があった。

相手はクリスが紹介してくれるというし、
正直少しでも収入があるのは有難いので
二つ返事で了承した。

『住むのはどんな人なの？結局会えなかったけど』

KR「向こうも忙しくてタイミング合わなかったな。
でも綺麗好きなのは保証する」

『燃やさなきゃいいよｗ』

KR「…いつ帰ってくるか聞くのは野暮か」

『クリスのドライ・マティーニが恋しくて
すぐ帰ってくるかもｗ』

KR「バーカｗ女一人なんだから気を抜くなよ。
そこそこ見た目はマシなんだから」

『褒められてる気がしないんですけど』

他愛もない話をして、笑って、時間は過ぎて行った。

………

……

…

昔から好きな車だったボルボのステーションワゴン。
中古で手に入れ、少し整備をして旅に備えた。

まだ日が昇り切らないうちに玄関で靴を履くと
家に鍵をかけ、荷物を積み込む。

運転席に座って友達がくれた交通安全のお守りを
ダッシュボードの中に仕舞うとエンジンをかけた。

……
…

数時間後、会社では私が退職したことを
上司や同僚が知ることになるだろう。

有休に入る前に荷物は片付け、引き継ぎ資料は
ファイルにまとめて社内サーバーに置いてきた。

優秀な同僚にメールを送っておいたから
うまいことやってくれるだろう。

送別会なんて…
笑顔で花束を渡されたら殴っていたかもしれない。

醜態を晒したくない一心で考えた去り方だった。

……
…

クリスの店の前で車を停める。

家の鍵を入れた封筒を、店のドアにある新聞受けから
滑り込ませると、静かな空間に "カチン" という
音だけがやけに響いた。

運転席に戻り窓を開け、クリスが住んでいるという
店舗の２階を見上げる。

『…いってきます』

キーを回してエンジンをかけると、
空が明るくなってきた方向を目指して
静かにアクセルを踏み込んだ。