29話 ページ29
「ん、着いた」
『…、はい』
隣から笑い声がする。津田さんは堪えようとしているように見えるが…堪えきれていない。
「そんな緊張したような顔して」
笑われたっておかしくない、なんせ私から言ったのに私が緊張してしまっている。
『今からやっぱり帰る………とかないですよね』
「そんなのない。もう帰れませんー」
『ですよね』
津田さんのおどけたような口調に私の口元もつい緩んだ。
津田さんの案内のままエントランスに入る。
エレベーターを降り、ある一室のドアの前で足を止めた。
「どうぞ」
『! お邪魔します』
「こっち、リビング」
津田さんは持っていた車の鍵をいつもの定位置であろう場所に置いて、ソファを指さした。
「ええよー座ってて。なんか持ってくる…何がいい?」
『えーと…津田さんと同じので』
「コーヒー、一択」
『ふふっ、そうだろうと思ってました』
了解、とキッチンの方に向かう津田さんを見ていると、家の中だとかなり雰囲気も変わるんだなぁ、なんて思う。
いい意味の脱力感。
私の緊張もいつしかすっかり消えていた。
何がこんなにも私を変えるのか分からないが、何故かいつもより甘えたくなるし、近づきたくなる。
自分が自分じゃないみたい
「座っててええのに、」
『…』
「どうした?」
後を追うように津田さんの傍に行った。
特に何を言いたい訳でもなく、ただ…
『ただ傍に居たくて、』
稼働させたばかりのコーヒーマシンが音を鳴らしている。
津田さんはこちらに1歩近づき、優しく抱きしめてきた。
耳元で短いため息が吐かれる。
「俺はAの傍に居るから……ずっと」
頭の中が溶けそう。好きという感情に浸ってしまいそうに…
………あっ、!
何か言うより先に津田さんの腕を掴み1歩後ずさる。
『呼び捨て…今…呼び捨てで…』
間違いない。私の名前を"初めて"呼び捨てで呼んだ。
「ダメ?」
唇を少しとんがらせて聞いてくる。
『ダメじゃないですけど……でも…急は…』
照れて頭がショートしたみたいに、上手く言葉が出てこない。
「A」
そんな私を見て津田さんはもう一度、優しく呼んだ。
240人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
reren(プロフ) - 夕さん» コメントありがとうございます。正しくその通りです。自分では気づかないこともあるので御指摘本当に感謝致します(><) お読み頂き嬉しいです!ありがとうございます。 (2月17日 1時) (レス) id: f9bc992b4f (このIDを非表示/違反報告)
夕 - こんばんは(*^^*) はじめまして。 夜分遅くにいきなりすみません。。。 物語読んでいて気が付いたのですが。。。 15話のここの部分 関節キスが……なんて言えるわけがない。 これ正しくは間接キスが......ではないんでしょうか? (2月16日 0時) (レス) @page15 id: 6d33361b7d (このIDを非表示/違反報告)
reren(プロフ) - 虚無さん» ずっと待っていただいてました??(><) 申し訳ないです。学業の方が忙しくて全く更新できてませんでした🥲 この作品もですが、新作も考えているのでこれからもお付き合いくださると嬉しいです! (5月30日 10時) (レス) id: f9bc992b4f (このIDを非表示/違反報告)
虚無 - ヤッター更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! (5月29日 21時) (レス) id: 4a11fac183 (このIDを非表示/違反報告)
reren(プロフ) - 蜂蜜姫さん» 楽しんでいただけてすっっごく嬉しいです!ありがとうございます!色々重なりに重なって更新できてませんでしたね…近いうちにまた更新します!これからもよろしくお願いします🙇⤵︎ (2022年12月26日 16時) (レス) id: f9bc992b4f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:つた。 | 作成日時:2022年10月13日 0時