男■性■恐■怖■症【夜久衛輔】

24→辛かった ページ25

フワッと風が巻き上がる。








屋上の扉を開けた瞬間、解放感に呑み込まれるような感覚に堕ちる。









夜「今日は涼しいな…。あっち、行こうか」









いつも辛さを忘れられる笑顔が濁っている。



「大丈夫」っていう魔法も、今日はないの？






それは、私のせいなの？









日陰に招かれ、腰を下ろす。





1mの距離を置いて。









時折強く吹く風が、私たちを連れ去っていくようだった。





そのまま身を任せてしまえば、楽なのだろう。









彼が口を開くまで、ずっと爪先を見つめた。









夜「……ねぇ」









にこりともせず、視線が交わる。






風に煽られた髪が視界を遮り、一瞬だけ夜久くんが見えなくなった。









　









夜「何があったんだよ」









表情は、見れなかった。




否、見たくなかった。









別に驚くことでもないのだけど









漠然とした「襲われた」では








何が伝わるんだろう。









そのことに、頭を悩ませた。









貴「……辛かったの」









夜「ん…？」









貴「お母さんとお父さんがいなかったことが」









真っ直ぐ前を向くと、目の前を二匹の小鳥が飛んでいった。









貴「辛かった」









ただ、それだけなのかもしれない。









悲しい、苦しい、痛い、寂しい









全てをひっくるめたら









「辛かった」の一言で表せるのかもしれない。









貴「それだけなの」









厳しく刺さる視線に目を伏せる。









ねぇ、そんな目で見ないでよ

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