純愛じゃない【灰谷蘭】

I'll keep hugging you. ページ32

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しばらく何も考えずに歩いていたせいか人通りの少ない路上へと出てしまい、私は鞄から携帯を取り出す。時刻はバイト先から出てきて1時間程経過していて随分遠くまで来てしまったせいか駅までまた歩かなくてはいけない程だった。

『不在着信13件』携帯の画面にはそう表示されていて、電話の相手なんて分かっているはずなのに見て見ぬふりをしてそのまま携帯を鞄にしまう。

私はそのまま駅まで歩こうと歩道橋の階段を昇っていく。傘、持ってくれば良かった。どんどんと冷えていく身体と心に両手で身体を抱き締めるように労り、歩道橋の真ん中まで歩いてきたところでその場に蹲る。


「馬鹿だ、私」


失恋したばかりの傷はなかなか癒えなくて、いつだって私の頭から離れてくれない彼が今でも愛おしい。
私以外にも一夜を過ごしている女の子が居たのだと思うとその苦しさにまた涙が溢れてくる。

私だけにその笑顔を見せて欲しかった。叶うことも無い願いを心に秘めたまま行き交う車の音に耳を澄ます。時期に階段の方から人の足音が聞こえてきた私は迷惑にならないうちにその場から立ち去ろうと泣き疲れた身体を起き上がらせゆっくりと立ち上がる。

信号の光と繁華街の光が視界に入ってきて、私はその眩しさに目を細める。歩道橋の柵に両手を置いてそのまま下を向いた私は誰にも聞こえないような声でそっと呟く。これで最後にしようと思った。


「好きです」


やっとの思いで口にした言葉に涙が止まらない私は両手で顔を覆い微かに声を漏らす。

もう帰ろう。そう思い心做しか重い足を動かそうとしたその瞬間、後ろから誰かの上着が身体に被せられ咄嗟の温かさに私の身体は固まる。思考が鈍っているのは雨のせいなんかじゃない。時期に後ろから強く強く抱き締められた心地良さと見覚えのある香りに目を見開く。


「俺も」


彼はいつだって私を抱き締めて離してくれなかった。



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