純愛じゃない【灰谷蘭】

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「A、お腹空いた〜」


そう言って、広すぎるキッチンで食材を切ってる私の腹に手を回し後ろから手元を覗いてくる蘭さんは「へえ、何作ってんの？」と耳元で吐息混じりに囁いてくる。何故こうなった。

数時間前、彼の弟である竜胆さんと軽い自己紹介をした後すぐにどこかに出掛けてしまった彼を他所に私は蘭さんと二人きりになってしまった。いきなり襲われかけたということもあり、即座に帰ろうと思ったのだが腕を掴まれ「俺、お腹空いた〜」と無茶振りをしてきたのである。

もう時期夜に差しかかる程の時間だったのでこないだのワンピースの件もあり、作ったら直ぐに帰ろうとは思っていたのだが後ろから抱き着かれているせいで集中が出来ない。


「手、震えてる」


そう言って私の手の上に自分の手を重ねた彼は、いきなり手を重ねられて肩が揺れた私の反応を心底楽しんでいる様子だった。


「…っ蘭さん！そういう事しないでください！」


「えー」と言いながらも私の腹から手を離さない彼に溜息を零しつつ料理を進めていく。彼と出会った時はまさかのホテルでワンナイトラブだった訳だし、今こうして二人きりになるのも私としては十分に危うい。さっさと作って家に帰ろう。私は、腰あたりに感じる重みと耳元に感じる彼の吐息に翻弄されつつなんとか手を進めていった。



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