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小さな調理場には割れたお椀やタオルなどが落ちている。でも、まぁ、食べかけのものがないだけマシだろうか。
少し奥には机や布団を敷いていた。昔はそこで眠っていたはずなのに、今やその床には紙や本が散らばっていて、今、ここで生活しろと言われたら間違いなく外で寝た方がマシだと言うだろう。
「…あいつの事だ、この中にあるって言うのも十分ありえるな。」
ポケットに入れていた、あいつが俺に渡したメモを取り出してもう一度見る。あるものを探してほしいと言われて来てみれば荒らされた家。
この中から探すなら一日はかかるだろう。小さくため息を吐いて、家から出る。
1度船に戻って、今日は帰れないことをほかの仲間に伝えなきゃいけない。
そう思って不死鳥に姿を変える。来る時は街を見てから来ようと思っていたからならなかったが、もう一度歩くのは面倒だった。
「バウ！」
飛び立とうとした時だった、足元に寄ってきた小さな犬…いや、狼は俺を見てもう一度吠える
「…俺を待ってたのか？」
そう言うと「ガウ！」と吠える狼は、くるりと背を向け歩き出した。慌てて人の姿に戻って後を追う。
家から5分ほど歩いた頃か、日当たりのいい場所にある巨大な大木の前で狼は突然走り出した
大木の真ん中は大きく穴が開き、1匹の黒い狼が眠っている。どこか見覚えのあるその狼に近付くと、こちらに気づいたようで「クゥン」とだけ鳴いた。
「…お前さんは、知ってるのか？」
あいつが探してほしいと言ったものを
俺の言葉が分かったのか、のそりと起き上がるとその大木から飛び降りて森の中へと入っていく黒い狼。俺は、その後を追おうとしてやめた。
さっきまで狼が眠っていた場所に、1冊の本があったからだ
腕を翼に変えて軽く飛び、その本を手に取る
汚れている。けれど、読めないほどではない。
表紙をめくるとそこにはずらずらと書かれた綺麗とは言えない文字の数。直ぐにそれがなんなのか理解した。
日記だ。これはあいつの書いた、あいつが見ていた世界を書いた日記だ。
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作者名：ミトコン | 作成日時：2022年4月22日 1時
