【忍忍】 雨開の空 其の三

忍びの11-2 刺客兼お手伝いさん ページ17

やれ朝食は英国式だの、和食が良いだの、多すぎるだの口々に文句を良いながらも続々と席に着く面々。そのままお行儀良く手を合わせた。刺客の前での言動とは思えない。


「ストーップ！！！」

「ぐえ、」


痺れを切らした風花が、天晴のステーキを片手で取り上げたまま大声をあげた。あまりの皆の適応っぷりに混乱して席に着こうとしたAの襟首を引っ張ることも忘れずに。潰れたカエルのような呻きが漏れた。


「どういうつもりですか！」

「…風花ちゃん、私猫じゃない…」


一応、一応小声で訴えてみるも、荒ぶる風花には届かない。自身へ詰め寄ってきた彼女にすら、キンジは余裕な態度を崩さないのだ。

彼曰く、弟子入りすれば従兄弟達の面倒を見るのは当然だと。刺客とお手伝いさんが一辺に来たってことか、とは凪の言。物騒なお手伝いさんにも程がある。


〜〜


その"お手伝いさん"とやらは本気なようで、朝食後は実に素早く食器類が片付けられた。板間も囲炉裏を囲める元通りの配置に。

午前10時、今度は裏庭で元気に洗濯物を干している。中々シュールな状況だが、天晴は面白そうだと受け入れているようだ。
と、そこに張本人が意気揚々とやってくる。


「落語や時代劇があっしの日本語の教科書でございやしたからねぇ。それと、勿論この本も」

「お祖父様の本ですねっ！？」

「わっ！？」


Aの身体が、ぼんと弾き飛ばされた。
凪と風花に受け止められながら後ろを見ると、いつの間にやらこちらへ来ていたキンジが手に持つ本に、霞がかじりついていた。

どうやら祖父が書いた英語の本らしい。
ただのイタリアかぶれかと思っていたが、意外とそうでもないようだ。

そんな中。刺客が標的と馴染んでいる状況に危機感を覚えたのか、とうとう八雲が本を取り上げて噛みついた。
キンジも負けじと言い返す。


「それに、easy(イーズィー)じゃございやせん。easy(イズィ)、でございやす」


……と思ったら、いつの間にやら発音バトルに発展していた。
そういえばこの二人、かたやイギリス育ち、かたやアメリカ産まれの英語話者同士である。頑なに言い争いは続く。


「どっちも変わんないじゃん」


骨肉の争いをバッサリと切り捨てる、凪の容赦ない一言。風花とAが横でうんうんと頷く。

もし二人に聞こえていたら揃ってつっかかられそうな物言いだが、日本語が母語な人間からしたら大して変わらないのだ。仕方がないだろう。

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