胃袋を掴んでしまった、という話。【rbr】 (ページ29)

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しっぱいページ29

『…じゃあ、私も…Aで、いいですよ。』

「…、ほんまぁ？」

驚いたようにぽかんとした後、嬉しそうににんまりと笑う呂戊太さん。ええ、と頷く。

「Aさん」

『はい』

「Aさーん」

『？はい』

「Aさぁん」

『？？はい、呂戊太さん。』

何度か私の名前を呼ぶと、満足そうにまた彼はお酒を喉へと流し込んだ。喉仏が何度も上下する。
飲み過ぎですよと注意をするも、ええやぁんと聞く耳は持たず。

「Aさーん」

『はい？』

「…んふふ、」

3角座りに、ほっぺに手を当てにへにへと笑う彼。これはまた随分と酔ってるなあと、内心苦笑いをした。

「Aさんは、お酒、強いんやねぇ」

『ええ、まぁ…と言っても、度が低いですから。さすがにスピリタスとか、ああいうのは飲めませんよ。』

「へえぇ、凄いなあ」

『本当は酔った方が女の子としては可愛いんでしょうけどね。』

酒にも強い、隈は化粧で隠すし、手入れが面倒で髪も短く切った。
何かでいることが、物凄く怖かったから。何者にもなりたくなかった。

「Aさんは、強い女の子やなあ」

呂戊太さんが、そう言う。からかいかなと思ったものの、彼の目は真剣を孕んでいて。

『…どうして、ですか？』

「んん、自分の芯をしっかり持っとるからかなあ。」

『…芯、ですか。』

そうや、と彼は頷く。私の芯って、一体どんなのなのだろうか。

「Aさんどー思っとるか分からんけどお、少なくとも、Aさんは自分らしーで居ればええと思うねん。」

『…自分、らしく？』

「ん。今のAさんは、色々抱えてしんどそうやしなぁ。」

あはは、と乾いた笑いが出た。そっか、辛いんだなあ、私。
久しぶりに、こういう言葉が聞けたかも。愚痴はいつも遥に吐いてたけど、最近はそういう話はしないし。

『…辛いです、正直。何をやっても、失敗ばかりで。』

彼は相槌を打ってくれる。

『中学の頃は本当に、親に迷惑をかけてばっかりで、勉強がまともにできたのは高校でした。そこから必死に食らいついて、大学もいい所に入って、欠席も遅刻もなく卒業して、なのに、』

親には無理はさせたくなかった。沢山迷惑をかけた相手に、これ以上迷惑をかける訳にはいかなかったから。支えてあげたいって、今度は自分の番だと、そう思っていたのに。

うまくいかなくて。