胃袋を掴んでしまった、という話。【rbr】 (ページ2)

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りんごページ2

非常に、非常に困っている。

目の前の、りんごと癖のある字で書かれたダンボール。その中身はもちろんりんご。
祖父母の家から大量に送られてきたりんごだ。

数日前に送られてきたものを頑張って消費しようとしたが、この始末。
"青森の美味ぇりんごがっぱ食って、がっぱ人のだめにけっぱって働ぎなさい"じゃないの、もう。限度を知らんのやからあの人らは…ありがたいけどさ、果物好きやけどさ。

『…ほんまどないしよ、お隣さん貰ってくれるやろか…。』

いや、マジ本音を言うなら行きたくない。だって今夜よ？まだ更けてないけど飯時だし、なんや悪いやんそんなん。

『あﾞ〜〜もう、もうええわ。今日の雑談で愚痴ればええんや、せや、そうしよ。』

アップルパイをホイルに包み、大きめのタッパーに詰め、お気に入りのケーキ屋さんの袋に入れ、お気持ち程度に手紙も入れ、部屋を出る。

薄暗く照らされた廊下は、少し不気味で。さっさと行こうと、勢いで隣の部屋のインターホンを鳴らした。

「はあい。」と、気の抜けた声が聞こえる。隣の部屋の主、天乃さん。下の名前も、普段どんなことをしてるのかも知らない人。普段、ごみ捨てか犬の散歩の時にたまたま会って挨拶するぐらいで。

『あ…すいません、隣の部屋の者なんですけれど…。
えっと、アップルパイ…そう、作りすぎて、お、おすそ分けです。』

そう言うと、気だるげな声が一気に明るくなる。

「"ホンマですか？！あ、すぐ取りに行きますね！"」

『は、はい。』

一歩下がると、すぐに扉が開かれた。オレンジ色のTシャツを着た彼。

「いやあ〜、ありがとうございますぅ。実は腹空かしてて、買いに行こうと思ってた所だったんで、めちゃくちゃ嬉しいすわ！」

ニコニコと笑顔を浮かべる彼。私より背は低いものの、男性らしくてガッチリとした印象だった。最初から、全く変わらない。

『い、いえ、全然…美味しくなかったら、タッパーごと捨ててもらっても、かま、構わないんで…。』

「ええ！そんな勿体ないことしませんよ！ありがたく食べさせてもらいますね、いやあ〜やったあ…。」

明日の朝タッパー返しに行きますねと彼は言った。別にひとつのタッパーぐらいでとも思ったが、何かしていて邪魔したら悪いな、と分かりましたと歪に返事をした。

じゃあ、とお辞儀をして天乃さんの部屋を離れる。