胃袋を掴んでしまった、という話。【rbr】 (ページ6)

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みるくてぃーページ6

「いやあ俺、お恥ずかしいんですけど…。丸田さんのアップルパイに胃袋掴まれたんで、ちょっとお話、してみたいなあ思てて…。」

『…えっ』

あ、あれで？あのクック〇ッドで調べて適当に作ったやつを？？

『う、嬉しいです、ひ、久しぶりに人に振舞ったから、腕が落ちてないかと。』

「いやめちゃくちゃ美味しかったすよ？！あれで腕落ちなら昔はどんなんやねんって話なります」

べた褒めじゃないか。
照れくさくなり、頬を掻く。実家は地方で、まさに昭和の名残の家に生まれ落ちたから、家事をするのは女、男は仕事っていうものを染み込ませられていた。そのおかげか、料理はすごく好きになったんだけど。

『ちょ、と休憩しよか…。そこの公園で、ひっ、ひと休み、しましょう』

「お、分かりましたー。近くに自動販売機あるんで、なんか買うてきましょか？」

そんな、と首を振るも、アップルパイのお礼ってことでとにっと笑う彼。
あんなのただ押し付けたみたいなもんなのにな。

『え、と…じゃあ、あれば、ミルクティーで』

「はあい、ちょっと行ってきますね〜。」

歩いて行く彼の背中を見届ける。近くの黄色いベンチに座って、息を吐き出した。白い息が、空気と融解する。

「丸田さ〜ん、どうぞ〜。」

『あっありがとうございます…。』

「いえいえ。」

彼も横に座り、無言が流れる。
でも、こういう時がいちばん安心できるような気がして。

『あ、天乃さんは、な、なにか、スポーツとかしてらっしゃるんですか…？』

「ん？いや、筋トレしてるんですよ。丸田さんもしてみます？楽しいですよ。」

『あ、はは、ついていけるかなあ』

根性はあるけど、体力が無いからな。基本的座っての仕事が多いから、動くこともないし。
なんというか、骨と皮って感じだから、脂肪を筋肉に変えるってなかなか難しそうだけど。

『そ、ですね…色々落ち着いたら、少しずつ始めてみますね。
今、は、お仕事と生きるので、精一杯だし…。』

膝の上に乗ったみたらしを撫でる。

仕事をしているうちに、自分が何がやりたいのかも分からなくなってしまった。
料理は、すごく好きだったってことは覚えているけど、他は全部、分からない。

今は、心の余裕がないから、新しいことを始めるのはすごく難しいとそう思う。

でも、もし別の仕事が出来るのなら、なんて儚い希望だけど。