唄を忘れたマーメイド３ (ページ2)

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御守ページ2

俺、本当に舞台に立つんだ…。

【ＫＡＩＳＩＤＥ】

メイクも衣装も整えて、舞台袖に立った。

開演３時間前。あと１時間もすれば、このホールは観客で一杯になる。

バレエのコンクールで舞台に立つのは慣れているはずなのに、さっきから手の震えが止まらない。でも、心は不思議と高揚してて、今すぐに踊り出したい気持ちが抑えられない。

なんだろう…この感覚。
俺、緊張してるのかな？

緊張というのも違う気がして、しばらく考えてみたけど、分からなくてモヤモヤし始めたから考えるのを辞めた。

暗い舞台袖から見る舞台の上は眩いライトが当たっていて、別世界のよう。

テミンが見ている世界…それがずっと羨ましかった。やっと、その背中が見える場所にたどり着いた。
本当の意味で横に並び立つには、まだまだ経験が足りないけど、俺の新しい世界は今日、ここから始まるんだ。

頭の中に流れる音楽に合わせて、緩く体を動かす。
テミンの動きを思い出しながら、無心にイメトレをしていると、微かにクン…と引っ張られる感じがして、振り向くと。

「ジョンイナ？」

Aが目の前にいて、驚いた。

「集中してるのにごめんね。ヒョクオッパが、一回集まりたいって探してて。」
「わかった。」

控室に戻ろうと踵を返したら、またしてもクン…と引かれる袖。

「A？」
「えっと、引き止めてごめんね。その前に、これを渡したくて。」

銀のリボンが掛かった黒い箱がポンと手の上に乗せられた。

「俺に？」
コクンと頷いて、ワクワクした顔で俺を見上げるA。

促されるようにリボンを解いて、小箱を開けた。

「うわ…カッコいい…。」

中に黒い革にシルバーの金具がついたブレスレット。

「これ、お前が？」
「うん。ジョンイナにも初舞台の御守り。」

テミンが初舞台の時、Aはビーズと革紐でミサンガを編んで、プレゼントした。
テミンはずっとそのミサンガを大切にしてて、俺はすごい羨ましかったんだ。

同じように俺にも御守りを作ってくれた事が嬉しくて、ブレスレットをそっと取り上げると、Aに差し出した。

「着けて。」

真剣な顔でブレスレットを受け取ると、くるりと巻きつけて金具を止めた。

「ジョンイナの初舞台が成功しますように。」

そう言って十字を切る姿に、不思議と気持ちが落ち着いてくる。

絶対、上手くいく。
上手くいかせてみせる。

そう、思いながら、俺は一歩を踏み出した。