職業：女優１０

事件の概要 ページ32

＊橋本環奈 Side





連日、ニュースでAさんの事が報じられていた。
それによると、今回の事件の犯人は２人。



１人はAさんを刺したストーカー。
もう１人はAさんと同じ事務所の同期の女優さんだった。



ストーカーはその場で現行犯逮捕。
同期の女優さんも３日後には逮捕されたという。





刺した犯人は、元々Aさんのファンだった。
どこにでもいる、いたって普通の。


そんな普通のファンが、ある日偶然街でAさんを見かけた。
勇気を出して声をかけると、Aさんが笑顔で握手をしてくれた。
「大好きです」と言うと、「嬉しい、ありがとう」と言ってくれた。
思い込みの激しかったその人は、その言葉にAさんも自分が好きなんだと思ったという。



「これは運命だったんだ」



そう勝手に思い込み、ストーカー行為をするようになったらしい。



でも当たり前のことだけど、Aさんはその人を好きなわけがない。
だからどんなに手紙を送っても、贈り物をしても自分に気付かない。
自分だけのものにならない。



そんな時、同期の女優さんがストーカーの事を偶然知った。



同じ事務所、同い年、同期のAさんとその女優さん。
デビュー当時は仲も良く、よく遊んでいたらしい。
ただ、そんな関係も徐々に変わっていった。



名指しで主演やヒロインのオファーが来るAさんと、オーディションを受けても落ち続ける自分。
貰えても名前もない端役ばかり。
いつしか



「自分が仕事を貰えないのは、Aがいるせいだ」



とAさんを妬むようになった。
Aさんを陥れてやろうと思ったその人は、ストーカーをこう唆したらしい。



「Aを殺して自分も死ねば、ずっと一緒にいられるよ。彼女はあなただけのものになる」



事務所に確認して、Aさんのいる場所までストーカーに教えていたそうだ。
そしてストーカーはAさんを刺して、自分の事も刺した。
でもストーカーは自分を刺す時に尻込みしたらしく、傷は浅く命に別状はないという。
Aさんは未だ意識不明の状態だというのに。



事務所も警察に相談していたけど、まさか同じ事務所に手引きしていた人がいるとは思いもよらなかったようで。
結局、事件は起きてしまった。



ただでさえ辛かったはずなのに、自分のファンと友達が犯人。
Aさんが目覚めてそれを知った時、きっとまた悲しい思いをするんだろうな。
そう思うと、また涙が出そうになった。

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