職業：女優１０

守れなかった約束 ページ30

＊吉沢亮 Side





Aからの連絡のない携帯を見つめては溜息を吐く。
だからといって自分から連絡する勇気もなく、ましてやAの家に行くなんて出来るはずもなく。
携帯の中でしかAに会えない日々が続く。



「嫌われた」


「もう会えない」



そんな現実を認めざるを得ないのかな、そう思い始めた頃。



「AAさんが意識不明の重体だって！」



映画の撮影中、飛び込んできたスタッフの言葉に思考回路が一瞬で停止する。



Aが、意識不明……？



「どういう、こと……ですか？」


「え？ いや、ニュース速報で流れたんで詳しくはわからないんですけど……なんか刺されたらしいです！」



刺さ、れた？


Aが？


誰に？ 何で？ どうして？



「吉沢さん？ 吉沢さん、大丈夫ですか？」


「え……あぁ、はい……」



その後、どうやって仕事をしたのか
どうやって家に帰ったのか覚えていない。


気付けば俺は、水田さんに連絡してた。



『もしもし？』


「……水田さん、あの……」


『かかってくると思ってたよ』



予想通りだね、と水田さんは小さく呟いた。
久しぶりに聞く水田さんの声は、随分と疲弊している様に感じた。



『Aのことだよね？』


「はい、あの……意識不明って……」


『うん、今ICU』


「何で……」


『……ストーカーにね、刺されたんだよ』


「ストーカー……？」



水田さんはこれまでのことを包み隠さず、全部話してくれた。


もう何ヶ月も前からストーカー被害にあってたこと
盗撮や盗聴されていたこと
仕事に影響が出ていたこと
警察に相談していたこと
周りの人を巻き込まない為に距離を置いていたこと
同期の女優まで関わっていたこと



そして



『吉沢君は名指しで脅迫されたんだ』



仲良いって有名だったからね、と呟く水田さん。



『これ以上接触すれば、吉沢亮がどうなっても知らない』



そんな手紙が、Aの元に何度も届いていたらしい。



「俺、そんなの知らない……」


『本人には口止めしておいてほしいって、Aの希望。吉沢君の事務所とかマネージャーさんには伝えてあるよ』



だから最近、一人で出歩くなとか、変わったことはないかって口煩く言ってたのか。
マネージャーさんや周りのスタッフさん達がピリピリしてたのも、これが原因だったのか。

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