職業：女優４

横浜まで ページ40

ちょっと肌寒いけど、よく晴れたいい天気。
約束の時間ぴったりに、マンションの前に１台の車が止まる。
助手席のドアを開けてくれたので急いで乗り込むと、運転席に座る倫也さんがふんわりと笑った。



「お待たせ」


「時間通りですよ」


「でも待ったでしょ？ 寒くなかった？」


「大丈夫ですって」



私がシートベルトを締めたのを確認すると、倫也さんは車を発進させた。



「今日はどこに行くんですか？」


「横浜でも行こうかなって」


「いいですねー！ 横浜好き！」


「本当？ ならよかった」


「ご飯は中華街ですね！」


「そうだね」



平日の昼間という事もあり、車は順調に走る。
お互いの好きな音楽を流しながら他愛ない事を話していると、あっという間に横浜に到着した。



「久々だー、横浜！」


「あんまり来ないの？」


「プライベートでは来ないですね、あんまり遠出しないんですよー」


「そうか、Aは引きこもりだった(笑)」


「おうちが大好きなんです！(笑)」



車をコインパーキングに駐めて、倫也さんと並んでブラブラと横浜の街を歩く。
気になったお店にふらっと立ち寄ってみたりしていると、目の前に大きな公園が見えてきた。



「あ、山下公園だ」


「本当だねぇ」


「そういえば山下公園でデートすると別れるって話があるんですよね？」


「らしいね、Aはそういうの気にする？」


「全く。どこでデートしようと結婚する人達は結婚するし、別れる人達は別れるんですよ」


「ははは、Aらしい(笑)」


「だってそうじゃないですか？」


「まぁそうだね、行ってみる？」



山下公園を指差す倫也さん。
そんな倫也さんに、私は首を軽く横に振った。



「んー、やめときます」


「なんで？」


「倫也さんと別れちゃうから(笑)」


「あれ？ さっき気にしないって言ってたのに。それに俺いつからこんな可愛い彼女がいたの？(笑)」


「あはは！ 冗談ですよ(笑) でも山下公園はあんまりいい思い出がなくて」


「なに？ 元カレとか？」


「いや、仕事です。昔山下公園でドラマの撮影したことあるんですけど、そのときにNG出しまくって、監督にすっごく怒られて悔しくて大泣きしたんです」


「へぇ」


「だからあんまり、ね」



あの悔しかった思い出はいつになっても消えない。
今でもロケでたまに来ることがあるけど、大泣きしたあの場所は正直あんまり近寄りたくない。

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