イケボさん ページ13
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それからというもの
本名が“吉野北人”だということを知り、
16人のダンス&ボーカルグループで歌を歌っているということを知り、
そして人気も今右肩上がりで、注目を浴びている人だということを知った。
吉野さんが言っていた“また”は、あれから何度かあって
朝、学校に行く時にアパートの前で偶然あったり、
逆にバイト帰りの夜に仕事帰りの吉野さんと会ったり、
本当にご近所さんなんだ〜と実感できるくらいの頻度だった。
『あ、おはようございます』
だからなのかは分からないけど
前よりは吃ることなく、言葉を発することができるようになった。
北人「あ、Aちゃん。おはよう」
『あっ…』
そして、吉野さんも気づけば私のことをちゃん付けで呼ぶようになった。
…でも、吉野さんの横に知らない人がいる時はやっぱり言葉を詰まらせてしまう。
バイト先で見た顔を覚えている人と覚えていない人がいて、
だけど、同い年くらいだからきっとメンバーの人だろう。
「知り合い?」
北人「まあね…ご近所さんだよ」
「そっか」
帽子もサングラスもマスクもして顔はほとんど見えないし、
格好も全身真っ黒で、何もかも分からないけど、
低い声がすごく心地よくて、きっとこういう声をイケボって言うんだろうなっていう声で
勝手にボーカルの人かなって思った。
「こんにちは」
『…こんにちは』
その人と会話したのは、たったそれだけ。
吉野さんとイケボの人は私とは反対方向に歩いていった。
そんなイケボさんと、
私が会話を交わすようになるのは
もう少し先のお話。
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作者名:はるの | 作成日時:2020年10月16日 11時