もし力があったなら5 (ページ16)

今日:12 hit、昨日:11 hit、合計:29,418 hit

２１６ページ16

ジョングクはドアの前でしゃがみ込んでうなだれる。
「意味ない…これじゃ意味ないんだよ…」
こんな風にいじけていても何も前には進まないことはわかっていても、どうしても体が動かなかった。

コンコン
ノックの音がする。

「お、なんだお前、こんなところにしゃがんで、どうした」
ドンソンは、ドアの前で小さくなるジョングクに不思議そうに尋ねた。
「…なんでもないです」
小さく答えるジョングクに軽くため息をつくドンソン。

「記憶を失うというのは、なんていうか…辛いよな」
「はい？」
ポツリと呟いたドンソンにジョングクが聞き返す

「俺もさ、ここに来る前までの記憶が最近までなかったんだ。ここに来るものは、記憶を操られるからな。でも、何がきっかけか、突然夢を見るようになったんだ。なぜだか懐かしい夢。それで、ある時気づいたんだ。これは、俺の、昔の記憶だって。いい記憶ばかりじゃなかったけど、特にここにくる直前は。でも、それでも俺を作る大事な記憶なんだって、今は思えるよ。だからなんていうか…お前には申し訳ない。」

ジョングクはドンソンが小さくなったように見えた。

「なんで、そんな話僕にするんです」
感じた疑問を口に出してみる。
ドンソンは薄く笑って言った
「最近のお前を見ていると、夢をみているようだから。俺と同じように。…さっきの様子をみると、思い出したんじゃないのか？」
思わず、身体が固まった。

「はは、カマ掛けたつもりだったんだけど、図星みたいだね。まあ、付け焼刃だし仕方ないか…。…ほかのやつらに悟られちゃいけないよ。ここで信用できるのは、自分だけだ。…あと、説得力ないかもしれないが、俺も味方のつもりだ。」
「あなたが、僕の、味方…？」
「あぁ。俺たちは、この本部ってやつを潰そうとしてる。」
なんとなく、このドンソンという男の事は信じてもいい気がした。

「わかりました。あなたの事は信じます。でも、僕、ヒョンたちを助けなきゃなんないんです。」
ジョングクがいうと、ドンソンは深くうなずいた。
「助けたいなら、なおさら、忘れたふりを続けろ。俺たちがサポートする。」
「そんなんで、助けられるんですか？」
明らかな疑問の目を向けるジョングクに、ドンソンは苦笑いする
「まあ、信じろって言った後にいうことでもないけど、あんまり見たままを信じるなよ。」
ジョングクはわけがわからなかったが、どうやらほかに道はないようで、静かに頷いた。