No. 2 屋上のあの子 ページ4
屋上へたどり着くと、落下防止用のフェンスの側でうずくまる彼女がいた。
『大丈夫？』
優しめの口調でゆっくりと話しかける。
「……」
返事はない。
『アイツらならもう行ったから、安心していいよ』
それでもいいと私は続けた。
こんなもので安心できるはずがないとわかっていても。
『……それじゃあ、私もう』
「どうして？どうして助けたの？」
再度、彼女の方を見る。
前髪の隙間から透き通った緑色の瞳が私を捉える。
「答えてよ」
『……助けることに理由なんてない、って父さんが言ってた。
実際そんなもんだよ。気づいたら体が飛び出してたっていうか』
「嘘だ。だって……」
そう言って、彼女は首を横に振った。
「あの人たちも最初は優しかった。けど、だんだん酷いことされるようになっ て……何も言い返せなかった。信じたくなかったから。言い返したら、優しかったあの時が嘘になる」
辛そうに顔を俯ける彼女。
信じていた人からの裏切りか。
きっと私が思っている以上に辛い経験なのだろう。
『もしかして余計なお世話だった？』
「そうじゃない‼助けてくれたとき、すごく嬉しかった。ただ信じられなくて」
彼女は今にも泣き出してしまいそうな顔で、じっと見つめていた。
「その人が心の底から善人なのかわかんないじゃん。プロヒーローだって、もしかしたらうわべだけの偽善者かもしれないでしょ？」
『なんで……』
……そんなこと言うの、と聞こうとしたら、彼女はどこか寂しそうなヘラヘラとした笑顔をみせた。
「私の親戚にね、プロヒーローの人がいるの。助けて欲しいって言ったら 辛いことは耐えるべきだって言われたの、おかしいでしょ？」
なるほどね、プロヒーローにそんなこと言われちゃ、信じられなくなるのもわかる気がする。
『……君が言いたいことはよ〜くわかった。だからさ、ゆっくりでいいや』
「え？」
彼女が不思議そうな顔をする。
『友達になろうよ。もし君が、私のことを信じてもいいって思えたときには』
「……優しいんだね」
『えへへ。あっそうだ、私の名前は…』
「神鳴沢Aさん、だよね？お父さんが有名な人だから…』
気の抜けたようなふにゃっとした顔で彼女は笑う。
そんな彼女につられて、私も笑い返す。
『さん付けじゃなくていいよ。なんかくすぐったいからさ』
「うん、わかった。……私も自己紹介しなくちゃね」
「私の名前は…」
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作者名：蜜柑星 | 作成日時：2020年12月4日 22時
