２ 今日も頑張れ 後輩ちゃん！

巡り合い.5 ページ19

「焼きそばパン特有のソースの香りが感じられない！」
「味が…しない…」

食堂では片手に焼きそばパンを持った生徒達が思い思いに叫んでいた。
まさに阿鼻叫喚である。

「ここねちゃん、らんちゃん、これってもしかして…！」
「ブンドル団の仕業！？」
「こ、声が大きいよ、らん」

人混みの中で3人の少女がコソコソと話す。

ピロピロンッ

「「「！！」」」

少女達が常日頃から身に纏っているブレスレット…ハートキュアウォッチから軽やかな音が流れ出す。
少女達は顔を見合わせて食堂に背を向けた。



「っ！すまない」

食堂の入り口ですれ違った生徒と肩がぶつかり、あまねの口から謝罪の言葉が口を衝いて出た。

「私こそすみません！」

つい最近耳にした声にあまねが顔を上げると、後輩である和実ゆい達が。
ゆい達は急いでいるのか、謝罪もそこそこに食堂から駆け出していく。
あまねはゆい達の走り去った後を冷めた目でじっと見つめた。

「生徒会長！」

あまねが食堂に足を一歩踏み入れた途端声がかかる。
瞬時に辺りを見渡して状況を把握したあまねは即座に指示を出した。

「一度落ち着くんだ、みんな。
私は心当たりがあるから様子を見に行ってくる。
先生も呼んでくるから安心してほしい。」

あまねの指示を聞いた生徒達は安堵の溜め息を吐いて、胸を撫で下ろした。
用を済ませたあまねは一度も表情を変えることなく、ゆいの後を追って身を翻した。



「おいっ無理して食べるな。水を飲んだほうがいい。」

拓海は浅い息をしている友人に水を差し出す。
友人の他にも知り合いや先輩、後輩達が同じように焼きそばパンを片手に顔を顰めている。
拓海は戦慄を感じるも、自分がしっかりしなければならないと気を引き締めた。

「生徒会長！」

誰かの声に拓海は顔を上げる。
少し離れた場所に冷めた目をした生徒会長、菓彩あまねが立っていた。
あまねは流れるように指示を出し、自身のするべきことのために食堂を去った。
あまねがいたのは一瞬だけなのにも関わらず、食堂内はあまねが来たことで徐々に落ち着きが戻ってきた。

「拓海…良いのか、行かなくて」

友人が食堂の出入り口を見つめる拓海に気を使って声をかけた。
拓海は友人を心配そうに見つめたが友人は水を片手にゆっくりと息を吐いた。

「大丈夫、これくらいのことでオレの焼きそばパン愛は冷めないさ…！」

グッジョブとドヤ顔で言う友人は拓海の背中を押した。
拓海は後ろを振り返らず、走って食堂を出た。

巡り合い.6→←巡り合い.4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す