包帯無駄遣い装置、胸キュン研究記録

対照実験（番外SS） ページ20

はじめてきちんとした質感と体温を持つ恋人を持った。
　ラブ・ゲージが画面上に見えていたり、攻略の方法が明確にインターネットのまとめサイトに定義されていたりしない、ひとつの意志を持った恋人を。なにより、私とおんなじ世界線に生きている恋人だということが私を落ち着かせなくさせる。
　つまり、私ははじめての恋人という存在がとても嬉しく、その嬉しさゆえに舞い上がっていた。舞い上がった勢いで武装探偵社の仕事に有給を取り、はにかみながらひとりで洒落た服屋に行って、店員に勧められるがままに普段の自分なら絶対に買わない服を買ってしまった。

　──そして、今に至る。
　クローゼットを開ければそこにはその(・・)服たったいちまいきりしか存在せず、家中を引っかき回してみても、かろうじて季節に合わない服が数枚あるばかり。つまり、私が今、武装探偵社に出勤するためには、以前私がアドレナリンどばどば夢うつつ状態で購入した服を着ねばならない、ということなのだ。
　改めてその服を見つめ、ひとり激しく首を振る。あり得ない。普段から身なりに気を遣っている系のキラキラ女子ならともかく、長年オタクをこじらせてきた系女子代表である私に、この服を着、あまつさえ職場に出ていくということは荷が重すぎる。しかし私に残された有給休暇は既に尽きていた。勢いで職場の調査員(現在の恋人)を家に連れ込んだときと、ふわふわ服を買いに出かけたとき、そして同人誌即売会に出かけたときの三点で。
　うがあぁあ、と頭を抱えた。静かになった部屋に、こちこちと時計が針を刻む音だけが聞こえている。その音は私に究極の二択を突きつけてくるような気がした。
　曰く、病欠などと虚偽の報告で非常に(・・・)真摯な国木田さんを騙し、家に残るか、恥をかいてでも探偵社に行くか。

　「……ひイッこの服布地がてろんってしてる！ てろんって！」
　私は結局後者を取った。着慣れぬ服に苦戦し、迫る時間に焦ってよく考えずに服の袖に腕を通しながら。


　「お、おはようございます……アハハ……」
　まさかここまで空気が酷くなるとは！
　私が探偵社の社内に入った途端に社員(しかも女性もだ)が目を剥いて固まり、その後示し合わせたようにずざざっ、と太宰さんのほうを見た。うわぁやめてくれよ、と苦る。そして、それは実際声に出た(もっともそれは心の中の声よりもずっと慎ましいものだったが)。

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ラッキーアイテム

砂色の外套

ラッキーなシチュエーション

森さんが壁にかっこよく手を突いた

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