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「ドルー……ドルーを返せ!」

 涙交じりの声でケントが叫ぶ。
 そう、もし彼が、かつて迫害をその身で受けたユアンが、彼を八つ裂きにしてしまったとしたら――抵抗組織は、この子供たちに、目の前で、尊敬できる大人たちによって「やられたらやり返していい」「復讐も私刑も、どれも素晴らしいものである」と行動で示してしまうことになる。
 抵抗組織の目的は、差別のない、すべての人種が共存するかつてのリンガル王国を取り戻すこと。それを叶えるためには、トーカー側からの蔑みを排除することは最低条件だが、当然、ベアマン側からの復讐も認めてはいけないのだ。
 そしていま、ルカの背後にいるのはそんな世界をつくっていく希望がある子供たち。――あれほどひどい目にあっていたにも関わらず、誰一人として優しさも、強さも失わなかった!
 どうすべきか――そう焦るルカのうなじを一筋汗が伝った時、侯爵が口を開いた。裂けんばかりに口角を上げて、彼は微笑む。

「おお。片耳ウサギじゃないか。よかったな、君の仲間のキツネ君とおそろいになったぞ!」
「お、お、おれが頑張ったらドルーには手を出さないと言っただろう!」
「ああ、言ったさ」

 そう言って侯爵は意地悪く笑い、隣の男からドルーを受け取って掲げた。

「でも君は逃げたじゃないか。だったら、このキツネが傷つくのも道理というものさ」

 そこでいったん彼は言葉を切ってドルーを地面に落とした後、彼の背を踏みつけて言った。

「だからね、取引をしようじゃないか。これが欲しい、これが欲しいとわめくだけなのは子供だけでもできることだからね。――君たちの中から一人こちらへ来れば、このキツネは返してやろう。どうだ? 真っ当だろう?」

 ――どこがだ。
 さすがのルカでさえも、一瞬頭に血が上りかけたのか――一度手が、武器の入ったウエストポーチへ伸びた。が、我を取り戻して、その手は強くこぶしを握る。
 だったらぼくが。ケントがそう言おうとした瞬間。
 ううん、私が行く。だって、ここでいちばんのお姉さんだもん。サラが、ケントの服の裾を掴んだ瞬間だった。

「だったら俺でも文句ないよな、侯爵」

 侯爵の後ろに、「彼」が立っていた。

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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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