＊ ページ24
騎士団には、二種類の騎士がいる。階級の違いによる騎士と従騎士、という話ではなく――単純に「知っている者」と「知らない者」の違いだ。
“ユートピア”結成から十五年。悲しいことに、「組織」というものには「腐敗」の二文字がつきものだ。その代表例のようなものが例の参謀長である。
「知っている者」であるゲレオンにはあらかた任務の概要がつかめていた。これからこの騎士たちは、「一時収容所からベアマンの開放を目論む抵抗組織との戦う騎士」ではなく、「ベアマン愛好家と抵抗組織との戦いに体よく駆り出される騎士」になる。ついでに言えば、参謀長とその貴族――アクロフ侯爵とやらの間には金銭に人身売買と、泥沼な関係があるだろう、という予測まで。
こういう事情を、特に従騎士たちはよく知っていた。なぜなら、このような任務に駆り出されるのは、比較的権力を持たない彼らだからだ。厳格な団長や副団長に報告されては事である。そんなときに、容易く握りつぶすことができるように。――そして、そんな任務に携われば携わるほど、昇進はしにくくなる。便利な駒は、「あがり」になんてしてもらえない。
そんなこと、おそらくこの場にいる従騎士のうち――確実にネロあたりは知っている。おそらく、エミリアもその事実を見ないようにしているだけで、察してはいるのだろう。
けれど、その「裏」については誰も発言しない。
それが真実と決まっているわけではないから。ただ漠然と、「ある」だけで、それを証明するものなど何一つないから。そもそも証明したとて何になる？ 正義が明日の生活を保障してくれるか？
否。世界とは正義や合理などという分かりやすいものだけでできていない。妥協と調和ができないものは、組織においてはヒーローではなくただの鼻つまみ者にしかなりえない。
もちろんゲレオンもそうである。参謀長はさっさと消してやりたいとこそ思っているし、それに向けて汚職の証拠の収集だけはこまめにやっている。今回の件も一件増えた、と漏れなくカウントして。ただ、そんな彼にとっても大事なのは、正義や潔癖さより明日の飯と本の種である。先日良い古本屋を見つけてしまったので、今月は多めに稼がねば。
とにかく彼は、正しくは彼も――従騎士は「仕事」と割り切っている者が多い。それだけだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます！ 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (
レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます！ 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました！今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます！！ (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
