そして、悪夢の続き（一） ページ18
「そうして三週間ありとあらゆる場所を駆け回って、やっと俺達を見つけられたってわけか。……よく、頑張ったな」
そうユアンは頭をなでたが、ケントの顔は浮かない。耳はだらり、と力がなく下がっている。
「いいえ。ほんとうは、もっと早くいろんなことを覚えて、組織の皆さんとももっと早く会いたかったんです。――でも、できなかったから。きっともう、侯爵は帰ってきているだろうから。――ぼくがこうして安全な場所にいるときに、みんなはどれほどつらい目にあっているか！」
そう言うことでかつての記憶がよみがえったのか。ケントは肩をいからせ、浅い呼吸を繰り返し始める。先ほどまではっきりとユアンをうつしていた瞳も、いまは濁っていて――視界に何が映っているのか危うい。
自分がこうしている間に。
――それは、「彼」の命を糧に生きているユアンにもひどく刺さる言葉だった。「落ち着け、安心しろ」そうユアンは繰り返す。ケントにその言葉が届くように。そして自分の思考も、重苦しい感情に支配されないように。
静かな部屋に、荒い呼吸音がしばし響いた。
「ところで、その『侯爵』が何者かわかるか。屋敷の周りの環境やその侯爵の容姿、屋敷で見かけたものでもいい」
ケントが落ち着いてきたのを見計らってユアンがそう問うと、ああそれなら、と彼は改めて姿勢を正す。そして、こちらに背を向け、一気に上着を脱いだ。
擦過傷、切創、裂創、咬創――もともとどのような背中だったのかを想像するのが困難なほど、ひどく傷ついた背中だった。他のメンバーの手当てが上手だったからか、今ではそれほど痛みはないらしいが、その見た目の痛々しさは変わらない。そしてきっと、一生それはもとの様子には戻らない。
しかし、ユアンの目をくぎ付けにしたのはそれではなかった。彼の視線が集中する一点は、ちょうど肩甲骨の間とその下部に堂々と鎮座する、黒い帆を掲げた船を意匠とした、不気味な焼き印。
全貌があらわになった瞬間、すべての音が遠ざかったように彼は感じた。――無論、感じた、という感覚も。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます！ 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (
レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます！ 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました！今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます！！ (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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