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ページ15

「……それで、さっそくだけど」

 先ほどまでの無邪気さはどこへやら。少女の顔から太陽のような輝きはふっと消え、瞳には鋭利なきらめきが宿る。
 抜け道のこと。侯爵のスケジュールのこと。世話係の行動パターンのこと。どうやらそれぞれ受け持ちがあるらしい。つたない言葉で子供たちが出していく情報を、少女はたくみにつむぎ、まとめ、誰もの頭に容易に入るよう再構成していく。
 そして、受け持ちを持っていたのは何も特別な子供たちだけではなかった。なぜなら、一瞬場が収まったのを機に、隣にいたドルーまでもが、拙いながら商会の商品供給日についてしゃべり始めたのだ。
 もしかしたら、足手まといなのは僕だけなのかもしれない。
 そんな、ぼんやりとした罪悪感がケントの心を覆いつくさんとしていた頃だった。

「――そう。やっぱり、侯爵は1か月ほど帰ってこないというわけね」

 ケントくん、大丈夫? そう続いた言葉に、あわててケントはうなずく。よかった、とふいによみがえった微笑みに、何故か彼はどきりとした。
 そんな彼の様子など意に介せず、さて、と少女は皆を見回す。

「ではここで、いよいよ作戦を開始しようと思うのだけれど――どう、みんな?」

 すう、と夕焼け色の瞳が細められる。作戦実行に盛り上がる室内――と思いきや、彼女の雰囲気に流されたのか、代わりに厳かな空気に支配されていた。彼女の正面に座っていた少女が決意を込めて、といった風にうなずくと、それが周囲にも伝播し、やがて皆の意見が一つの「肯定」に固まる。

「その前に、しつもーん」

 少女が口を開こうとした矢先、熊のような耳と、それに似つかわしい巨体を持つ少年が間延びした声と共に手を挙げた。
 なあに、と少女が問うと、丸々とした太い指が急にケントの方へ向けられた。

「この前のかいぎから考えるに、あのうさ耳が実行役になるんだよな? 本当にだいじょうぶなのか?」

 実行役。
 意味は分かるものの、状況と照らし合わせればまったく意味の分からない言葉。それに、急に自分に注目が集まったのに委縮して、ケントの耳がおのずときゅっと縮まる。

「やだ、私のセリフ取らないでよ。今から皆に改めて紹介しようと思ってたのにぃ……」
「え、なんで姉ちゃんが紹介すんだよ。ケント兄ちゃんはおれのじまんの兄ちゃんだから、みんなに紹介するのはおれの役目さ。あとクマ助、兄ちゃんはすごいんだからな。つぎそんなこと言ったら、かみついてやる」

*→←迷宮の少年少女



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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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