＊ ページ12
つらい日々の中で忘れかけていた使命を、久しぶりに彼は思い出す。自分の役目を。すぐお調子者だけど、決して自分たちを裏切るなどしない兄貴分のことを。
ごめんね、ごめんねえ。おれ、がまんできなくって。
ドルーがしゃくりあげながら言うものだから、耳のいいケントでも聞き取れたのはそれくらいだった。
いいよ、大丈夫だよ、ぼくはお兄ちゃんだから。
そう返してやりたかったが、ケントもケントで言葉が出ない。これまで幾晩も流し――しかし最近ではついぞ流れることのなくなっていた涙が、目にたまってはどんどんと頬を伝う。
でもそれは暖かくて、乾ききった心と目を潤してくれるような心地がした。
これなら、この後どんな苦難があろうと、自分の身に降りかかるのでさえあれば耐えられる気がした。
お兄ちゃんとして、ドルーを守ることができるなら。
ひとしきり二人で泣いた後、思い出したようにドルーが顔を上げた。ずず、と鼻水をすすり、睫毛についた涙を腕で拭ってから口を開く。
「あ、あとね兄ちゃん。なんだかよく分かんないんだけど、兄ちゃん、おいとまをもらえたんだって。それで、おれたちがいるところへつれてけ、って言われたんだ」
「おいとま……？」
ぼんやりとした頭の中で、言葉を繰り返す。お暇。その言葉がぼんやりと浮かんだが、そんなはずがない、と打ち消す。
――どう反応すればいいか分からなくて、ケントはひとまず笑みを浮かべた。口角を上げるのなんて久しぶりだから、頬の筋肉が引きつりそうになる。
結果として変な表情になった彼を不思議そうに見上げながら、けれどしっかりとドルーは続ける。
「うん。なんか、こうしゃくさまがしばらく外出なさるから、あのウサギの坊やも迎えに行ってやりなさいって、お世話の人に言われたんだ」
お暇。再びその言葉が頭に上る。今度は輪郭もくっきりと。それは、地獄の中にそっとたらされた糸のような、そんな響きを伴っていた。
ぴく、とケントの花が疼いた。
「だから、行こう。おれ、友達ができたから、みんなに兄ちゃんを紹介したいんだ。それに――」
必死に上体を伸ばして、ドルーは彼の耳元でささやく。
「みんなで逃げ出せるかもしれないんだって。ここから」
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます！ 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (
レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます！ 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました！今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます！！ (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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