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まずい、と焦った彼女は立ち上がり、そのまま影の方へ大股で走っていく。しかし影が見えたのはあの一瞬だけで、それ以降手掛かりの一つだって見つかりはしなかった。
このまま無理に追ってしまっては、邸から完全に離れてしまうだろう。しばらく追ったところで、一時は湧きあがりかけていた頭を冷やした。彼女の任務は、あくまで警固なのだ。
すると同時に、不自然とも思えるほどにさっと視界は明るくなった。消えたかがり火が戻ることはないが、夜明けが近づきつつあったらしい。向こうに見える山のすそ野が白くぼんやりと光り始めていた。
――とにかく、状況を確認しないと。
そう彼女は、邸の方へ戻る。その途中で、正面扉から出てくる人影を認めた。中肉中背の、小ぎれいそうな中年――邸の主、アクロフ侯爵である。その後ろには、短髪の赤毛の男が付き従っていた。
「どうされました？ もしや、賊が中まで――」
「いや」
面倒くさい、というように侯爵は眉をひそめた。大きなずた袋を持ちなおしながら、すがめた目で彼女を見る。そうした侯爵から不思議と昔嗅ぎなれた臭い――直接的に言えば鉄臭い、体液の酸っぱさも混じったにおいがした。さすがに錯覚だ。そんな臭いを発しているのは自分の方だろう、と彼女は思い直す。
しかし、その一連で少し顔を顰めてしまった侯爵は苛立ったのか、視線一つ彼女にやらず言葉を続ける。
「まあ、君たちの警固のずさんさにはいろいろ文句の言いたいところもあるが――まあいい。もう用済みだ、適当に帰りたまえ」
「――え？」
嘘だ、と信じたくてアズサは問い返す。そんな、失敗、なんて。これではあの人に並べない。迷惑になってしまう。――悪い癖だ。一度戦闘が始まってしまうと、周りに気が回らなくなってしまう。心の中で彼女は自分を責めたが、いくらやってもそれは「後悔」にしかならなかった。
そんな彼女にようやく視線をやり、明らかに青ざめてい様子を彼は鼻で笑った。そしてもう一度、彼女が認めたくでないだろう事実を繰り返す。
「もういい、といったのだよ。それでは、私は用があるからね。『ある程度までのところ、所有が人間をいっそう独立的にするが、一段進むと所有が主人となり、所有者がドレイとなる』」
そう言うなり――侯爵の姿は、消えた。
小脇に、赤い染みがついた大きなずた袋を携えて。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます！ 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (
レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます！ 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました！今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます！！ (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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