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冷気と共に、火が消えた。
上手くやったな小娘、と内心で仲間をたたえつつ、抵抗組織の一員であるシトは陽動に移る。騎士をぶん殴りゃいいだけなんて楽、それに「陽動」なんて俺にゃぴったりだ、と自信満々に。
実際、見回りをしていた騎士の襲撃は上手くいっている。先ほど襲った茶髪の騎士。――本当なら一発で沈めるつもりで、その後、屋敷から離れた場所の奴を相手にするつもりだったが――まあ次でだ、と彼は地面を軽く蹴った。小さな石が、ころころと転がっていく。
小石はちょうど、騎士――エミリアの前で止まった。先ほどは一瞬狼狽が見えたものの、いまは表情一つ浮かべてはいない。そんな、シトを「人」とも思っていないような様子。
そんな姿に、しかし騎士は嫌いだ、と彼は頭をかいた。ベアマンには居丈高に接し、口を開けば「野蛮」「罪人」「犯罪者」とののしるくせに、自分の番となりゃこうして。
鼻を一度鳴らして、騎士の方をねめつける。
「理性あるトーカー様、それも理性の体現者である騎士様も炎と暴力にはビビってんじゃねえか! これじゃけだもの、ひいては畜生と一緒だぞ? ……それにてめえら、この屋敷で何が行われてんのか知ってるか? ――ま、思考放棄の自称『理性』には関係――」
彼の声は中断された。空気のわずかな変化に反応して振り向くと、こちらに斬りかからんと――実際、振り向かなければ背中を一撃、としていたであろうエミリアがいた。薙ぎ、袈裟掛けに切り、隙があれば足技もはさむ。息が上がっているようだがやむことのない連撃に、二歩、三歩、とシトは後退を余儀なくされる。
「フン、面白ぇじゃねえか! もっと来いよ! 理性と本能、どっちが強いか確かめてみようぜ!」
そうしてシトは体をひねりながら、右肘を彼女の首めがけてたたき出す。エミリアは、出しかけていた技を中断して剣をその肘にぶつけた。互いの衝撃が、互いの肩まで電流のように伝わる。
拳が振り上がれば剣が止める。剣が下から上がれば、靴がそれを押しとどめる。膠着状態になるか、そう思われた瞬間。
生々しい音が、二人の間でのみ聞き取れるような音がした。
見れば、エミリアの突きがシトの脇腹をとらえている。手ごたえあり、との感傷も同情もなく、次、と彼女は肉から剣をぬこうとする。が、何故か動かない。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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