3年前のあの日 ページ49
【流血・シリアスにご注意ください】
夜、ベッドに入り布団を頭まで被っても
私はなかなか寝付けなかった。
3年前のあの日の優人を思い出したからだと思う。
眠ろうと目を閉じると、
嫌な光景が浮かんで…。
3年前のあの日から
私の全ては変わり果てた。
弁護士の父と、専業主婦の母、
大学受験を控える私と、高校受験を控える優人。
私たち家族は、やけに仲の良い幸せな家族だった。
弁護士として忙しくしている父は、
私や優人の誕生日は、いつも
仕事を休むか、早く切り上げて帰ってきてくれた。
誕生日は家族みんなで過ごすのが
我が家の恒例行事だった。
あの日も…、父は仕事を休んで
昼間のうちから母の料理を手伝うと言っていた。
母はご馳走作って待ってるね、と言って
私と優人を学校へ送り出した。
「気をつけてね」
「あんまり遅くなるんじゃないぞ」
『分かってるよ。行ってきます!』
それが、私と両親の最期の会話だった。
私はその日、放課後に友達とショッピングをして
プリクラを撮った。
たくさんお祝いしてもらった後は、
電車で友達と別れて、
貰ったプレゼントを片手に家に着いたのは
18時半を過ぎていた。
あんまり遅くならないように、
そう言った父の言いつけは守っているつもりだった。
家の扉を開けば、ご馳走の匂いがして、
両親が笑顔で玄関に顔を出すんだろう、と思って
何も疑わずに玄関の扉に手をかけた。
『ただい、ま…』
途中で喉の奥がギュッと潰されたみたいに
声が出なくなった。
ご馳走の匂いなんてしなくて、
笑顔の両親なんて居なくて…。
扉を開いた先の玄関には、
重なるように倒れた血まみれの両親と
既に事切れた後の父に馬乗りになって
何度もナイフを振り下ろす男がいた。
『ひっ…』
狂ったように父にナイフを振り下ろす男の狂気と
真っ赤に染った我が家に、悲鳴に近い声をあげると
男はピタリと手を止めた。
そしてゆっくりと私を振り返る。
その瞳は酷く何かを恨む瞳で…
”逃げなきゃ”
そう思うのに、扉が開きっぱなしの玄関で
私の足は力が抜けてへたりこんでしまった。
その後のことはとにかく無我夢中で
記憶は酷く曖昧だ。
ただ、私の顔目掛けて振り下ろされるナイフから
腕を犠牲にして必死に身を守った。
すごく痛かったんだろうけど、それすら覚えていない。
「ねえちゃんっ!!!」
救い出してくれたのは、弟の声だった。
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作者名：優梨 | 作成日時：2023年2月8日 9時
