キランソウ−たかいの ページ21
記憶を辿る、ヴァンパイア
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朝…と言っても、俺たちの言うアサと、ヒトの言う朝は違うけど。
ヒトで言う朝、起きると外は黒雲で覆われていた。
いつもなら起きることのない時間。
あまりにも早く起きすぎたように感じて、もう一度眠りにつこうとしたけれど。
瞬間、遠くで雷が落ちたと同時に雨が降り出したから、俺は目をつぶることを諦めた。
太古から、雨の日は俺たち一族にとって、最悪なものだった。
嫌う理由はそれぞれだけど、一番は色々な環境のバランスが崩れるからだと思う。
環境が崩れるってことは、ヴァンパイアの持つ能力を鈍らせて、ヒトにバレる可能性が高くなるということ。
かつての仲間…そうだ、あのコだってそれで消滅に追いやられた。
だからヴァンパイアにとって雨の日は、昔から、十字架と同じくらい嫌うものの一つだった。
キングサイズのベッドの中、ぎゅうぎゅう引っ付いて寝ていたはずの伊野尾くんがむくりと起きた。
雷の音で、目が覚めてしまったらしい。
まだ眠気のとれないトロンとした大きな目がこちらを向く。
色素の薄い、ぽってりした唇が、微かに動いた。
「ね、高木…」
「ん?」
「のど、乾いた」
「…ああ、」
「ん、ありがと」
窓の外は、ザアザアと雨粒が降りしきり、伊野尾くんのか弱い声を掻き消す。
それでも、なんとか聞き取った声に顔を傾けると、伊野尾くんは俺にしがみついて首筋に牙を立てた。
こくこくと、喉のなる音だけが耳を支配する。
それから少しして、目の前が霞み始めた頃、伊野尾くんはようやく顔を上げ俺から離れた。
はらりと首にかかった髪を退けると俺の首筋が露わになって、牙の為に紅くなった痕に、伊野尾くんは優しいキスを落とすと、
「飲みすぎちゃった…ごめん。大丈夫?」
息を吐くみたいにそう呟くから、空気を多く含んだ言葉が首筋にかかって、少しだけやるせない気持ちになって、あのコを思い出した。
ほんの少しの思考の変化だけど、伊野尾くん目敏く気づいたみたいだった。
重ねた掌から俺の思考を読むと、伊野尾くんは俺から離れる。
目を合わせると、俺を攻めるみたいな、でも考えないでほしいと懇願するような強い感情が流れてきて。
俺は、やっぱり、伊野尾くんから離れられないのだと思った。
たとえ、あのコが心の半分を掴んでいようが、伊野尾くんを離すことは出来ないのだ、と。
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トルタ(プロフ) - cocoaさん» ありがとうございます。私の中の知念さんって儚さがあるイメージなんですよね…笑なのでそれを可愛いって言ってもらえて嬉しい限りです。低更新ですがこれからも楽しんで頂けると幸いです。 (2018年3月7日 17時) (レス) id: 2320849466 (このIDを非表示/違反報告)
cocoa - 初めてコメントさせていただきます!トルタさんのかく、知念さんの儚い感じがとっても可愛いです…!!ゆっくりでいいので、更新頑張ってください。応援してます! (2018年3月6日 6時) (レス) id: 950c02c76a (このIDを非表示/違反報告)
トルタ(プロフ) - 山田つばささん» ありがとうございます。そう言ってもらえると頑張れます笑 低更新ですがこれからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2017年7月23日 7時) (レス) id: f2950f8700 (このIDを非表示/違反報告)
トルタ(プロフ) - まじゅさん» ありがとうございます。BLの良さってありますよね…しみじみ思います笑 (2017年7月23日 7時) (レス) id: f2950f8700 (このIDを非表示/違反報告)
山田つばさ - 私には到底書けない繊細な表現がすっごく好きです笑笑 更新楽しみにしてます! (2017年7月20日 14時) (レス) id: ba7553ac36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:トルタ | 作成日時:2017年5月15日 17時