花に名を（ jump×jump ）２

シクラメン−いのあり ページ11

そこに行くときはいつも、ドキドキとワクワクと、あとすこしの苦さがある。





たとえばそれは、綺麗な箱に詰められた、宝石のようなビターチョコレートを食べたときみたいな、そんな感じ。

箱を開けるときのドキドキと、チョコレートを食べるときのワクワクに、口に入れた瞬間のほろ苦さ。

図書室に行くときはいつも、
そんな気持ちだった。





どうしてそうなるのかと問われても、いのちゃんが好きすぎるせいだからと言うしかない。

大好きな人が、図書室にきてまで好きな人を見てるのがわかって、その度に辛くて苦いのに。

それでも好きで、好きでどうしようもない。

いのちゃんとの時間をつくることができるなら、
たとえ、それが知念を見るためとしても
それでいいかって思えてきてしまうくらい。

だから俺は、惚れた弱みだと言うしかないのだ。





ちらりと隣を見るといつも通り、

窓に目をやって苦虫を噛み潰したみたいな、ちょっぴり泣きそうな顔をしているいのちゃんが見えた。

もう何回見たかわからない、この顔。





また、自ら自分を傷つける彼に、俺なら…なんていやな感情がふつふつと湧き上がってきて。

今すぐにでもその手を掴んで、

俺の思いの丈を全部伝えて、いのちゃんの心を
俺だけにできればいいのに。





ああ、でも、俺がそんなことをしたって、
何にもならない。

そう思うのに、それでも考えてしまうのは、
誰に向けたわけではない醜い嫉妬。

男の嫉妬は醜いなんて言うけど、
ほんと、そうだと思う。





「大ちゃん、どうしたの？ぼーっとしてる」





思い込みと考えすぎで自虐的になって、
自分が嫌で嫌でたまらなくなって。

目をそらそうとしたとき、

間延びした優しい声が聞こえて、隣に座るいのちゃんと目が合った。





いのちゃんは目尻を下げて、俺を見る。

そんな目に耐えられなくて、「なんでもないよ」とそう答えたけど、いのちゃんは不満そうな顔をしたまま。

俺、そんなに醜い顔をしていたのかな？





ああ、やだな。

こんな俺、いのちゃんには知られたくないのに…。

何となく、いのちゃんを見てられなくて俯いた。





「大ちゃん、悩んでるんだったら
我慢せずに言うんだよ？」





そしたら、ふわりと頭を撫でられて。

もうとっくに知念を見てると思ったから
びっくりして、

思わずいのちゃんを見ると、ニッコリ笑っていた。

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