38 ミンギュ side ページ37
「おーいミンハオ、アクリル絵具貸してー」
そう言ってドアを開けてミンハオの部屋に入ると
眉間に皺を寄せてミンハオがこちらを振り向いた。
「人の部屋入る時くらいノックしろよな。
いつも言ってるだろ」
「まぁ、そんな事言うなって！俺とお前の仲だろ？」
「ったく、こういう時だけ調子いいんだからお前は」
ミンハオは困ったように笑ってみせると
「全部持っていっていいよ」
と棚に丁寧に置かれたアクリル絵の具を指差した。
「少しでいいよ。てか全部ってなんだよ笑
お前もまだ使うだろ？」
棚の中から何種類かあるアクリル絵の具を
１つ２つと選びながら冗談半分でそうミンハオに聞いた。
「ミンギュ俺さ、もうすぐ中国に帰るんだ」
ミンハオの言葉に驚いて、手が止まる。
「…どうして？」
「レイさんが拠点をアメリカから中国に移すみたいで、ずっと前から一緒に来ないかって誘われててさ」
「大学は？休学するのか？」
「いや、辞めるつもりだよ」
隣にいるミンハオの肩を掴んだ。
「なんでだよ。
お前の学部に入りたくても入れない奴は五万といる。
環境も整っていて、その学部にいれば
自然と業界の人脈も広がる。
何よりお前の学部なら卒業後は、大手企業がこぞってオファーしてくるはずだ。
何も先を急ぐ必要はないだろ？」
「確かに、大学で学ぶのは凄く楽しいよ。
凄く勉強になるしね。
でも、実際にレイさんの仕事を近くで手伝ってる方が刺激になるし、得るものが多いって思ったんだ」
「俺がどんなに説得しても、
お前は行っちゃうんだな」
「うん。もう決めたからね」
ミンハオはいつものように穏やかな表情で答えた。
でも……
「Aはいいのかよ」
俺は気づけば、そう口走っていた。
「思いも告げずに行っちまうのか？」
そう聞くと、
穏やかだったミンハオの表情が張り詰めた。
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作者名：lala | 作成日時：2021年3月7日 0時
