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叶side


その後はいつものように、他愛無い会話をしてゆったりとした時間が過ぎていった



途中何か言いたげに口籠っていたが、それを気にすることなく会話を続けていると向こうから切り出してきた



「さっきの…何も聞かないんだね」



「ん〜?誰にでも聞かれたくない事ってあるじゃん?聞いてほしいならいつでも聞くけどね」



僕の返事に目を細めた彼女は小さい声でありがとう、と言った





_____





叶くんの何気ない気遣いに心が温かくなる



彼は周りをよく見ている。些細な変化にも目敏く気づき、さり気なく手を差し伸べてくれるのだ



毎朝挨拶をしてくれる時に、私の影口を言っている子たちを目で統制してくれたり



余りにも酷い影口が聞こえてきたときにはその場から連れ出してくれたり



彼に何度助けられたことか



今回もまた、彼の気遣いに助けられた



「主人公ちゃんはさ、少し視野が狭いのかもね」



「え?」



無意識に下を向いていたようで、彼の声に顔を上げる



「下ばかり見てないで、もっと前を見てごらん」

「視野を広く持つといつもと違う景色が見えてくるはずだよ」




視野を、広く




「急になんだって思うかもしれないけどね(笑)」



手元の携帯が音を鳴らす。画面には"お母さん"の文字



出ても大丈夫だよと言われ、応答の文字に震える指を動かす




『あ、もしもし!?主人公ちゃん?!体調悪いって、大丈夫?』


『上司に無理言って早上がりにして貰っちゃった!(笑)急いで帰るから、お家で温かくして待っててね!』


『主人公ちゃんの好きなりんご買ってから帰ろうと思ってるから、元気になったら一緒にアップルパイでも作りましょう』




絞りだした声でありがとうと言い、電話をきる



お母さんの言葉にまた心が温かくなる



目を伏せた彼は言った





_ほらね、君の周りは君が思うより温かいんだよ_






そっと目を閉じると、耐えていた涙が頬を伝った




_____





叶side


目を閉じて、流れる涙を拭う事もせずに静かに泣く彼女を見つめる



泣く姿さえも綺麗だな、という考えを頭の片隅にそっと涙を指で拭う



涙を流し続ける彼女に久しぶりに浮かび上がってきた一つの感情





_____いいなぁ_____






誰に向けてのものかなど、気付かぬふりをして


それを見つめる一つの影に気付かぬふりをして

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作者名:右京 | 作成日時:2024年3月20日 22時

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