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叶side
店員さんにお願いをして彼女と同じテーブルにしてもらい、隣に座る
「大丈夫? お水もらう?」
少しでも落ち着かせる為に、なるべく優しい声で話しかける
「大丈夫、何もないよ。私もう行かなきゃ…」
無理して笑っているのは一目瞭然。なのに元気なように振る舞う姿に心臓が嫌な音を立てる
僕がいることが都合が悪いのか、そそくさと立ち去ろうとするがそれを許せるはずもなく
「何もないはずないよね、今自分がどんな表情してるか、わかってる?」
彼女は僕の言葉に目を見開き、俯いた
その姿を横目に葛葉に連絡を入れる
ごめん、やっぱなしで
携帯をしまい視線を戻すと、微かに震える手を隠すように握りしめていた
「そんなに強く握りしめたら傷が出来ちゃうよ」
優しく手をほどき、代わりに彼女の手を握る
僕の行動に驚いたのか、視線が僕の顔と手を行ったり来たりしている
それが面白くて笑いが零れてしまった
突然笑い出した僕を見て一瞬呆けたがすぐ正気に戻ったようで、慌てて手を引き抜きぬき、口をぱくぱくさせている
金魚みたい、なんて場違いなことを思うと余計に笑いが込み上げてきてしまう
こんな時に笑うのは違うと分かっているのに、一度笑ってしまうと押さえることが出来ずにいた
彼女も最初は困惑した様子だったが、だんだん僕の笑いにつられたのかくすくすと笑い始めた
先ほどに比べて顔色も随分良くなり、震えも止まっていることを確認し一安心
対面に座りなおそうかと思ったが、何かで対面は相手に緊張感を与えてしまうというのを見た記憶を思い出し、斜め向かいに座りなおす
「よかった、少しは元気出たみたいだね」
「…ありがとう」
やっぱり優しいね、なんて言葉をかけてくれる彼女にまた心臓がきゅっとなる
優しくなんてないよ、その言葉が音になることはなかった
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作者名:右京 | 作成日時:2024年3月20日 22時