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落ち着きを取り戻した彼は一度咳払いをして姿勢を正した



「ハンカチ、ありがとうございました。洗って返します…」



先ほどの勢いが嘘かの様にまた小さくなった彼に自然と笑みが浮かんでしまう



「気にしなくて大丈夫ですよ。私も変なこと言ってすみません。」



返事をしたのにも関わらず黙ったままの彼。怒らせてしまったのかなと不安になっていると



「あの、」



何かを言おうとしては口籠り、ハンカチを握りしめている



本当にどうしたのだろうと思い、声をかけようとすると



「名前、主人公って呼んでもいい…デスか」



予想外の言葉に驚いたが、私からしてみれば得でしかない出来事に一瞬呆けてしまう



すぐに意識を取り戻し、二つ返事で承諾した



「よかった…」



小さく聞こえる彼の呟きは聞こえないふりをして私も勇気を出して問いかける



「わ、私も、葛葉くんって呼んでも、いいですか?」



かなり詰まってしまったが何も気にしていないかのように笑って承諾をしてくれた



余りの急展開にキャパオーバーしてしまいそうだが、この夢のような時間にいつまでも浸っていたいなと思いながら噛みしめる



これを節目に私たちがお互い心を開くのは早かった



彼の話はどれも面白く、話題や言葉の引き出しが多いのかずっと聞いていても飽きることはなかった



仲の良い友達とのお話、ゲームが好きだという事、わんちゃんを飼っているという事



実は人見知りがすごいという事



遠くから見ているだけでは知ることのできなかった彼の姿にますます惹かれていく



今までこんな話をする人はいなかった私は、どの話題も新鮮で、とても楽しく時が過ぎるのはあっという間だった



もうそろそろ帰ろうかという事でお店を出ようと立ち上がり扉に向かう途中、私たちが来るよりも先に居た女性が私にだけ聞こえるような声で話しかけてきた



「_______」



その言葉に女性の顔をばっとみると、その口元は弧を描いていた



前を歩いていた葛葉くんに呼ばれ返事をして急いでそちらに向かう





不快感には気づかぬふりをして_____

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作者名:右京 | 作成日時:2024年3月20日 22時

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