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そう言って目の前の彼は私の手首を優しく持って、歩き出す。普通ここで警戒心を持つべきなのだろうけども、私は目の前の彼が悪い人とはとても思えなかった。しばらく歩くと、先程の場所とは一転して治安が良さそうな場所に出た。私達はそこにあった1つのコンビニの前で止まる。

「お腹空いてそうやったから」

疑問で彼を見上げた私にそう彼は言った。そういった彼は私の手首を掴んでいた手を離し、そのままコンビニに入って行った為、私も続いて入る。好きなの選んでええよ、と彼は言った。多分そう言うってことはお金は払ってくれるのだろうけど、初めて、しかも先刻会ったばかりの彼に何かを買ってもらう、なんて凄い罪悪感があっておにぎり1つとお茶を持ってレジに行った。自分で払います、と財布を出す私に彼はポンポンと私の肩を優しく叩いて、そのまま彼のお金で商品は私の手元に来ることになった。

「それで足りた?」

コンビニの外に出て、彼に話しかけようとすると彼の方から話しかけてきた。はい、でも申し訳ないです、そう口にすると彼は乾いた笑いをした後、話し始めた。

「俺、昔家出したことあってな。お金も持ってきてなかったし、寝るとこもなくて、丁度君がいた辺りに蹲って座っとったんよ。んで、その時にオーナー、今の俺の上司がな、拾ってくれて。…だから、あそこにいた君を見てほっとけんくて」

それから彼は今ホストとしてあの場所で働いていること、名前は不破湊だということ、あそこは不破さんの店の近くの路地裏であまり治安も良くないし、未成年だしということで連れてきてくれたことを話してくれた。しかも、これから仕事があったのに、私の為に途中で帰ってくれたそうだ。その話を聞いて私は目線を落とす。彼は彼自身のことを沢山教えてくれた。けれど、私は事情も名前も何一つ言っていない。

「別に無理して言わんでええよ」

その優しい声に私は少し目頭が熱くなる。こんな見ず知らずの初めて会った私にこんなに優しくしてくれるのだ。もしかしたらそうやって優しくして、心を許して後から本当は悪い人だったとかもあるかもしれないけど、今は目の前の無条件の優しさに縋ってたい。

「そっかぁ、Aちゃんて言うんや」

話したのは名前と今の状況だが、彼は何も否定せず時々相槌を打ちながら話をきいてくれた。





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それが私と彼の出会いだった。

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作品ジャンル:恋愛
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蒼井(プロフ) - 狛希さん» 狛希さんコメントありがとうございます。読んでいただいて、その上嬉しいコメントを下さって本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2月6日 17時) (レス) id: 5ecf86ccc0 (このIDを非表示/違反報告)
狛希 - 初コメ失礼します。更新されたところまで読ませていただきました!夢主さんとの心の距離がどんどん離れていくような描写がすごく心に残りました。この作品が好きです! (2月6日 16時) (レス) @page23 id: 81e78c7a48 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼井 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/5291025/  
作成日時:2024年1月15日 18時

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