40 オタク奇譚 ページ42
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──伏黒は彼女の横顔を見て思い出した過去を頭の中から振り払った。
「何があったか知らねえけど……寧ろ、わかってよかったんじゃないか?」
「…なんで?」
「わからないってことをわかることが難しいだろ。でもAはそれを理解している。それだけで十分だと俺は思う」
なんだか自分でもよくわからないことを言っているが、Aは目をぱちくり、とさせると柔らかく笑った。
その笑顔に伏黒の耳が赤く染まる。
「ちょっとだけ、伏黒の言いたいことがわかったような気がする。…いつもありがと」
「いや、俺は…なにも」
寧ろこっちがお礼をしたい。
何度彼女の存在に救われてきたか。その笑顔にどれほど幸せを噛み締めてきたか。
それでも彼女との間には、昔にはない壁があった。
いつからだろう、彼女が自分を苗字で呼ぶようになったのは。恵、と呼ぶ声を聞かなくなったのは。
…贅沢なんだ、きっと。幼馴染という切っても切れない関係があるだけで十分だろう。それ以上を望むのは傲慢だ。
「なんかちょっとすっきりした!私、行ってくるね」
「は?どこに…」
「んー友達を助けてくる!」
そう意気込んで立ち上がったAは、もう一度小さな顔いっぱいに笑ってみせた。
──そうだ、俺の前で笑ってくれるだけでいい。
もうあの時のように悲しまないで、泣かないで、ただただ幸せに笑っていてほしい。たとえ自分が傍にいれなくとも、少しでも呪われることのないように。
…いや、違う。たくさん泣いていいんだ。その涙はできれば俺に拭わせてほしい。そうして、彼女が再び笑えるようになればいい。
「(どうか……Aが恐怖に脅かされないように)」
呪われた世界で、守り続けていくために。
「…無理すんなよ。怪我でもしたら殴るからな」
「それ酷くない???怪我人殴るの??」
「いいから行ってこい」
「理不尽!!」
もう!相変わらずドライなんだから!!と怒りながら彼女は歩いて行った。
怒っているときさえ可愛い。
思わず上がってしまう口角を手で隠して、Aの姿が見えなくなるまで伏黒は見つめ続けた。
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かぐや - あなたは神ですか?最高の作品をありがとうございます! (4月29日 19時) (レス) @page50 id: 41bd4258fc (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - 追記: 好きすぎて「ええやん!!」と叫んでしまって親に「煩い!とっとと寝ろ!」と怒られました....仕方ないだろぉ、最高なんだからこの小説、最高なんだから (7月11日 19時) (レス) id: 91d89c4fce (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - めちゃ良い愛され具合.....もしかして小説書かれていますか?本を出版していらしやすか?めちゃ好きなので続き欲しいでやす!あと、受験生って同じですね。頑張りましょう (7月11日 19時) (レス) @page34 id: 91d89c4fce (このIDを非表示/違反報告)
くさ - 制服、下はほぼ足なのに上は野薔薇ちゃんと一緒で長袖なの良いですね…!!この小説大好きです!「終わり」になってますがまだ書く予定があるなら更新無理なく頑張ってください! (2022年12月27日 9時) (レス) @page32 id: 56aae56e91 (このIDを非表示/違反報告)
吹雪 - うっうっうっう(ないてる)好きすぎて、でも虎杖が死んだってときは知ってるはずなのに泣いちゃって…好きですありがとうございますオタクとか最高すぎん????????更新応援してるぜ!がんばってくだせぇ! (2022年10月6日 7時) (レス) @page27 id: ad117a8b13 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くせらや | 作成日時:2022年8月26日 13時