お刺身かホイル焼きか ページ6
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高校生同士の距離が縮むスピードなんてものは思っている以上に早く、呼び方が“松村くん”から“北斗”に変わる頃には、彼も私の名前を呼び捨てで呼ぶようになっていた。
「暑い」
「暑いって言うから暑くなる」
季節はもう6月が終わろうとしている。やっと梅雨が終わったかと思うと、待ってましたと言わんばかりに太陽が顔を出して得意げに笑ってやがる。
だと言うのにこの学校は“冷房の使用は7月から！”なんて謎の規則を頑なに取り下げず、オジサン先生達と違って若くて代謝が良い生徒たちはヒーヒー言っている。
「女子水泳だったんじゃないの？」
体育終わりの休み時間は忙しくて、着替えが終わってひと休みと思っていたらあと2分で次の授業が始まってしまう時間になっていた。
ワイシャツをパタパタと扇ぎながらペットボトルのお茶を飲んだ北斗も、珍しくバテているみたいだ。
「そうだけど｣
「ならマシじゃん。俺らなんか蒸し切った体育館でバスケよ。大事な生徒を殺す気かっての」
「うわあそれは災難だね。でも水泳だって陸に上がったらもう一瞬でだめよ、待つのは死のみ」
「エラ呼吸なんだ」
そういう話？と思ったけれど、水泳後特有のどうしようもない眠気が私を襲って「んー」とか適当な返事しか出来なくなってきた。
キーンコーン…
予鈴が鳴って先生が入って来たから、ギリギリで立ち上がって号令まではしたけど、もう限界だ。眠すぎる。
「おいおいAさん、まじでご臨終？リアルにエラ呼吸してたわけ？」
目を閉じて机に突っ伏すと、まだ少しだけガヤガヤとしている中から、北斗の声だけが鮮明に聞こえる。
「…うるさいよ北斗、授業に集中しなよ」
「どの口が言ってんだよ。
…その寝方じゃまた首痛くなるぞ」
何故か「一瞬だけ起きろ」と言われて渋々顔を上げると机に差し出されたのはスポーツブランドのロゴが小さく入ったフェイスタオル。
「…なに？」
「心配しなくても洗ってあるから、枕にでもしたら」
言葉とは裏腹にぶっきらぼうに言った北斗は、いつものように教科書を開いて真っ直ぐ前を向いてしまった。
「…ありがと」
聞こえているか分からないくらいの声になってしまったけれどお礼を言って、それを枕代わりにしてまた眠りに入る。
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一瞬だけ窓から吹いた風は、生温いけれど心地良かった。
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fm - すごく引き込まれる文章、物語の構成でした。言葉選びも素敵であっという間に一気読みしました。高校生の頃のあの、焦ったい青春を思い出すことができました。ありがとうございました。 (2022年2月6日 11時) (
レス) @page49 id: fa24b69ff2 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - yanchahime3014さん» 初めまして！青い鳥まで来てくださって嬉しいです、ありがとうございます。優しいコメントをくださる主様が来世こそは｢好きで悪いかぁ｣されますように。 (2020年6月29日 22時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
yanchahime3014(プロフ) - はじめまして。引き込まれて一気に読ませていただきました。そして、青い鳥のフォロー申請させていただきました。切なかったけど、幸せになってくれて本当に良かった。私も「好きで悪いかぁ」ってされたい人生でした。 (2020年6月28日 18時) (レス) id: 7c22139847 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - しろくまさん» 始まりとエンドロールにもコメントを下さってありがとうございました！泣いてしまっただなんて…しかも2週もして下さったなんて…もっとしちゃって下さい！(厚かましい)今後も楽しんでいただけるように頑張ります！ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - 杏奈さん» 最後までお付き合い頂きありがとうございました！おお！そのセリフがあってこそのこのお話だと思うので気付いて頂けて嬉しいです。もう少しですが是非お付き合い下さい！^^ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヨモギ文庫 | 作成日時：2020年5月5日 13時
