涙が決意に変わる時 ページ42
信じられない、しかも同じ学校の生徒かよ。と思うと同時に
「いや、昨日って…まさかそんな事ある訳ないよな？｣
真実であって欲しくない想像をしてしまった。
どうしてもそうでは無いと否定して欲しくて思い切りドアを開ける。
「名前は！？」
「北斗、お前浴衣着て誰と祭りなんか行ってたんだよ、羨ましいな〜」
「名前はって聞いてんだよ！その子の名前は！？」
思わず座り込む親父の胸ぐらを掴んで問いただすと、缶ビールを机に置いたそいつは面倒くさそうに口を開いた。
「Aちゃんだよ、真宮Aちゃん」
絶望とは、この事か。
手の力が抜けて、親父の服からストンと落ちた。
上の空だったのは、表情が暗かったのは、いつも通りではなかったのは、昨日、君が泣いたのは。
全部全部、そういう事だったのか。
それなのに俺はただ自分の欲求を満たすために傍にいて、花火になんか誘って。
俺が鼓動を早めるすぐ傍で君が傷ついていた事なんて知らないまま、あんな事をしてしまって。
「北斗、知り合いだった？」
悪いことしたな〜なんて全く思っていない癖にそんな言葉を吐いた親父に吐き気がして、すぐに立ち上がって逃げるように自室へ駆け込んだ。
強く閉めた扉を伝ってズルズルと座り込むと浴衣の帯が邪魔をするけどそんな事今はどうだっていい。
「…んでだよっ」
俺が泣いたって仕方が無いのに、どうしようも無く悔しくて、申し訳なくて。
それなのにこんなにもAの事が好きな自分が腹立たしい。
血が滲むくらいに下唇を噛んだのにそれに見合わず涙は零れ落ちる。
「っ…」
鼻を啜って何とか立ち上がって窓を開けると、少しだけ涼しい風が涙を攫う。
こんな事なら隣の席になんかならない方が良かった。
君を知らないままの方が良かった。
そう思いたいけど
･･･━━━━━━━━━
「松村くん」
「…うるさいよ北斗、授業に集中しなよ」
「早く帰りなって」
「来年も、見れるかな」
━━━━━━━━━━･･･
こんなにも手離したくない思い出なんて初めてだから。
俺の人生の中で一番色濃く鮮明な記憶だから。
何よりも傷付けたくない存在に気付いてしまった俺は、それとはもう、関わらないことを選んだ。
いつか自分が彼女を潰してしまう原因になってしまう可能性が少しでもあるのなら、離れた方が良いと。
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fm - すごく引き込まれる文章、物語の構成でした。言葉選びも素敵であっという間に一気読みしました。高校生の頃のあの、焦ったい青春を思い出すことができました。ありがとうございました。 (2022年2月6日 11時) (
レス) @page49 id: fa24b69ff2 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - yanchahime3014さん» 初めまして！青い鳥まで来てくださって嬉しいです、ありがとうございます。優しいコメントをくださる主様が来世こそは｢好きで悪いかぁ｣されますように。 (2020年6月29日 22時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
yanchahime3014(プロフ) - はじめまして。引き込まれて一気に読ませていただきました。そして、青い鳥のフォロー申請させていただきました。切なかったけど、幸せになってくれて本当に良かった。私も「好きで悪いかぁ」ってされたい人生でした。 (2020年6月28日 18時) (レス) id: 7c22139847 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - しろくまさん» 始まりとエンドロールにもコメントを下さってありがとうございました！泣いてしまっただなんて…しかも2週もして下さったなんて…もっとしちゃって下さい！(厚かましい)今後も楽しんでいただけるように頑張ります！ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - 杏奈さん» 最後までお付き合い頂きありがとうございました！おお！そのセリフがあってこそのこのお話だと思うので気付いて頂けて嬉しいです。もう少しですが是非お付き合い下さい！^^ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヨモギ文庫 | 作成日時：2020年5月5日 13時
