天然タラシだよ？安吾さん!!その６

手で掬える程度の土でも外堀は埋まる ページ9

｢体重が気になる？｣

｢……お疲れですね。体重じゃなくて体臭ですよ｣

｢……あぁ｣

昼食に割く時間を節約しなければならない為、今日もオフィスでサンドイッチをかじる。

｢気にし過ぎでは？｣

彼も玉子サンド片手に書類に目を通している。

｢でも、体臭なんて自分では気付かないものですし。それに…｣

｢それに？｣

｢深月ちゃんが私からモヒートの香りがすると言われたんですよ。寧ろ体臭より気になります…｣

｢……モヒート……あぁ、貴女の愛用は白梅香ですからね｣

｢……よくご存知で｣

｢毎日のように近くにいますからね｣

｢……私、香水キツいですか？｣

｢いいえ、何時も上品に香ってますよ。貴女のことだから当然オーガニックでしょうし｣

｢……本当、よくご存知で｣

｢……貴女は、鈍いですね｣

｢え？｣

私がパチクリとまばたきをすると彼はそれがまた可笑しいようで口角を意地悪く上げた。

｢御安心ください。貴女の香りは評判ですよ｣

彼はその一瞬だけ私と目を合わせてからまた書類に視線を落とす。

私は少しもやっとして八つ当たりにサンドイッチをガツガツ頬張った。

今の笑いは一体何だったのだろう。

｢それより…その靴、ちゃんと似合ってるじゃないですか｣

｢……複雑です。靴音がこんなに五月蝿いの、私だけなんですから｣

私がそうしてむくれると、彼はまた可笑しそうに笑った。









※補足※

主人公が気にしていたモヒートの香り。
どうやら“香水が苦手な誰かさん”の為に“誰かさんが必死に探した”香りのキツくないオーガニック系です。

故に何気なーい、さり気なーい移り香に気付いて貰えなかったようです。

しかし、“マーキング”としては割と成功したもよう。

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