天然タラシだよ？安吾さん!!その６

Morte alla Francia ltalia anela!! ページ11

男は竦む私を置き去りに放物線を描いて飛んでいったかと思えばまばたきの間にふわりと外套の袂で高級な革靴に惜しげもなく肢体を踏みつけられていた。

｢さっきから見てりゃド素人かよテメェは!!｣

ついでにツッコミを入れながら腕を捻りあげる青年の勇ましい姿はいっそ痛快で、思わずおぉ…と感嘆してしまう。

｢お見事…｣

｢ありがとよ。つーかテメェも危ないハッタリはもうかますんじゃねぇ。指突っ込んだところでガス圧の衝撃で弾かれて怪我するだけだろーが｣

｢えぇ。相手が私よりも遥かに素人で本当に助かりました｣

もっと言うとこの青年のおかげで自分で蹴りを入れずに済んだ。

気に入りの服を汚さずに済んで大変ありがたい…なんて浮かれていると不意に呻きが上がる。

｢助けてくれよ…放してくれ…ヤクを横領して金が要るんだ…このままじゃ地獄の果てまで追い回されて殺されちまう…｣

――――なるほど。

最近“新参”のマフィアに麻薬を中心に動いている組織があったのを書類で見たことがある。

しかも親玉は銃のバイヤーとしても有名な男だったはず。

もしもこのコルト・パイソンがその男の所有物で、彼が横領の隠蔽のため命惜しさに盗んだのだとすると、鑑賞用でもないのに手入れが行き届いている銃を所持していたことも含めて大体の合点がいく。

｢……あ｣

はたとそういえば肝心のコルト・パイソンはシリンダーを抑えたまま自分の手元に残され持て余していることに気が付いた。

しまった、今までずっと持ちっぱなしだったな。

青年も片手間にどこぞへ電話をかけており、今まで隠れていた店員さんの安堵の表情から見ても事態は収束に向かっている。

私も、最後まで素人ぶるならとっととこのコルト・パイソンは“素人が実弾の入った銃を持つなんて”とか適当に理由をつけて青年に押し付けるべきかな…。

｢あの、これ…どうしましょう？｣

｢ん？あぁ俺が預かっとく｣

ほら、と案外気軽に差し伸べられた手をつい目を皿にして見つめる。

先程からなんとなく気にはなっていたが身に纏っている衣服の高級さもさることながら手袋まで高級革である。

しかもつくりからしてオーダーメイド。

随分お洒落に気を遣っている方だなぁ。

しかし。

｢はい、どうぞ｣

何気なしに銃を渡そうとした時だ。

ふとシリンダーの中から微かに、微かにだが異音がした。

なんだか妙に乾いた音だ。

Morte alla Francia ltalia anela!!→←Morte alla Francia ltalia anela!!

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す