焼却を望む画家 (ページ19)

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十八話ページ19

『翼がなければこの程度の道を越えられない、そう思われていることが……とても遺憾です』。

「フンッ、ならばどうする」

『測定不能でも、例え最下位になったとしても、私は旦那様の”もの”としてその力を示します』

「(旦那様？)」

『それでは、カルエゴ卿。私はゴールに向かいますので、お先に失礼します』

そう言って見事なカーテシーを披露したピクトゥーラはおそらく無口頭魔術で重力操作(フラクタル)を唱えたのだろう。軽々とその小さな体で飛び上がり、岩から岩へと飛び移って行った。まだ許可を出していないというのに。……やはり問題児で間違いないか。

「……にしても、あそこまで容易く無口頭魔術を使う一年生がいたとはな」

＊＊＊

岩から岩へと飛び移ることはそんなに難しい事じゃない。重力操作(フラクタル)で体を軽くして飛び移れるギリギリの岩まで飛躍すればいい。もし岩までの距離が足らなかったら変化(チェルーシル)で岩の形を変えればいい。

『いつの間にか、他の方々を追い抜いてしまいましたか。このまま行けば最下位にはならずに、それどころか上位五位以内を目指せそうですね。少しペースを上げますか』

無口頭魔術については花嫁修業中に身に付けた。ある時からいちいち呪文を口に出すのが面倒になったのだ。おかげで、なんの支障もなく無口頭魔術を使えるようになった。

『おや、まさか私は一位でしたか』

「……本当に飛ばずに来たのか」

『この世界には有言実行という素晴らしい言葉がございます』

「ハッ、確かにその通りだな。だが、教師の許可無く勝手に行動するのは減点対象だ。以後気を付けろ」

『申し訳ございません』

「あぁそれと、一年生にしては見事な無口頭魔術だった。これからも怠れず励むことだな」

『……ぁ、ありがとうございます』

いきなり褒められてかなり驚いてしまったけど、それだけのちょっとした会話で何となく。本当に何となくだけど、この悪魔の事が少しだけ分かった気がする。
厳しいお叱りの言葉の後の優しい褒め言葉は。飴と鞭を意識する者が意図的によく使う方法。だけど、目の前のナベリウス＝カルエゴ卿という教師は、意図的でもその場限りの言葉でも無く、ただただ真っ直ぐ真剣に、生徒である私に向き合って裏表の無い言葉を贈ってくれる。
あぁ旦那様、貴方様が尊敬すると仰った理由がよく分かります。