あいも変わらず (ページ2)

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▼満月の夜/izw ページ2

綺麗な満月の夜だった。
またね、と軽く手を振った後で、離れていく細い手首を逃すまいと掴んだ。

「どうした？」

ドクンドクン。
質問には答えず、ごくりと唾を飲み込んだ。

今日言おうと決めていた。「Aが好き」と。
いつもはごまかしてしまうこの恋心を、素直にさらけ出そうと決めていた。

「あのさ、嘘みたいなんだけど聞いてくんねえ？」
「んー？」

ドクンドクンドクン。
うるせえな心臓。そろそろ緊張とかしねえ歳なのに。

「俺さー……Aのこと、好きなんだよね」

震えた。けど、言えた。

やべえかなり引きつった。いい歳して告白くらいできめえ。でもそれくらい必死なんだわ。

大げさに心臓を押さえ込んだ。だってそうでもしないとほんとに死ぬかと思った。

「え…本気？」

もちろん本気。
だから、そっちも本気で考えて欲しいな。

そんな気持ちを込めた視線をぶつけた。するとAは少しだけ迷ったように目を伏せて、

「それならこっちも本気で答えるわ」

と、力強い声を発した。

それを聞いた瞬間、あー…これ俺振られるのなー……って思った。なぜかは知らんけど。

……え、でもまだ無理言われたわけじゃないし、信じさせて。9割無理でも残りの1割を100パー信じてるからどうかどうか

「私好きな人いるから、その人のこと好きなうちは他は考えられないの、ごめん」

割とガッツリ9割の方でびっくり。

あ、そっか。そうなんだ。うん…

A好きな人いるんだ。いつも一緒にいる俺すらその存在を知らなかった、Aの好きな人、かぁ…

「そっ、か。その人俺より素敵？」
「どうかね？でもただひとつ言えるのは、伊沢は私にとって最高の友達ってこと」
「それは…」

最高の振り文句だな。

この歳になって、本気の失恋。

あー…悲しい。ショック、普通にショックだわ。ショックすぎて言葉もでねーよ、なんか言わねえとAを困らせるだけなのに。

上を向いて涙が出そうになるのをこらえた。振られて泣くなんてダサすぎ。でも振られても、好きな子の前ではかっこよくいたいと思うことくらい許して欲しい。

上を向いたら、月がやたら綺麗でムカついた。夏目漱石がI love youを「月が綺麗ですね」と訳したことは有名だが、ここで思い出すのはしんど。俺のI love youは届かなかったからな。

月明かりに照らされたAはやっぱり綺麗で、満月の夜に告白してしまったことを少し後悔した。